中国越境ECの基本から最新事例まで! 中国ビジネスの専門家が成功ポイントを徹底解説【前編】
- 2019.06.042024.01.30
年間100兆円を超える世界最大のEC市場を持つ中国。
日本から中国へ商品を売る「越境EC」は、その将来性の大きさから、多くの日本企業が取り組んでいます。
一方で、中国に進出した日本企業の成功事例が見えにくいこともあり、「中国向けの越境ECで、成功する方法が分からない」といった声を聞くことも少なくありません。
そこで今回、株式会社フューチャーショップは、中国ビジネスの専門家を講師に招き、中国越境ECをテーマとしたセミナー「中国デジタルマーケティング最新事情 & 中小企業でも活用できる中国越境EC」を4月18日に開催しました。
今回も見逃し無しの内容です。前後編でお届けいたします。
講師として登壇したのは、10年以上にわたり中国で日系企業のWEBマーケティングやプロモーションを支援してきた上海賢房信息技術有限公司(KEMBO)の中原賢一総経理。
そして、日本企業の越境ECを数多く支援してきた実績を持ち、TMall Globalの認定パートナーでもある株式会社エフカフェの高岡正人取締役です。
中国ビジネスに精通したお2人が、中国EC市場の最新動向や、現地で実際に売れている商品のトレンド、流行りのプロモーションツールなどを紹介したほか、中国越境ECに参入する具体的な方法も解説しました。
セミナーの後半では、株式会社フューチャーショップの安原が、ECサイト構築プラットフォーム「futureshop」を活用し、コストや手間を掛けずに海外販売に取り組んでいる企業様の事例もご紹介しました。
中国向け越境ECで成功するために必要な”リアルな情報”が盛りだくさんだった「中国デジタルマーケティング最新事情 & 中小企業でも活用できる中国越境EC」をレポートします!
中国デジタルマーケティング最新事情
(スピーカー:上海賢房信息技術有限公司 総経理 中原賢一 氏)
▲「前編」は第1講座までをレポートしています▲
●第2講座
中小企業でも活用できる中国越境EC
(スピーカー:株式会社エフカフェ 取締役 高岡正人 氏)
●第3講座
越境EC専用サイトを構築せず海外販売に対応した事例
(スピーカー:株式会社フューチャーショップ セールス・マーケティング部 安原貴之)
目次
第1部 中国デジタルマーケティング最新事情
セミナーの第1部では、日本企業の中国におけるデジタルマーケティングやプロモーションを支援している、上海賢房信息技術(以下、KEMBO)の中原賢一総経理が講師として登壇。
各種データから見た中国EC市場の現状や、中国ECの最新トレンド、デバイスの活用状況、そして、中国のデジタル市場で戦う際のポイントなどを解説しました。
中原賢一(なかはら・けんいち)氏 2003年からWEB系システム開発にて中国と日本の往来を開始。2008年に上海でKEMBOを設立し、これまで中国の大手日系企業を中心に、WEBマーケティングやプロモーションの支援を多数実施してきた。現在はデジタルマーケティングコンサルタントとして、クライアントと寄り添い、新ブランドの戦略立案から制作・運用までデジタルマーケティング全般をサポートしている。
データから見える中国ネットユーザーの最新動向
中原氏は政府統計など各種データに言及しながら、中国におけるインターネットユーザーの現状を紹介しました。
中国のインターネット利用者数は約8億3000万人(2018年12月時点)で、全人口に占めるインターネット普及率は約60%。
モバイル端末でインターネットを利用している割合は、インターネット人口の98.6%であることなどに言及した上で、市場の特徴を次のように説明しました。
(2019年04月現在)
中国のインターネット人口は約8億3000万人と膨大でありながら、インターネット普及率はまだ59.6%にとどまるため、今後もネット市場は伸びていくと予想されています。
また、インターネットを利用している人の、ほぼ全員がスマホやタブレットなどモバイルを使っていることが中国の特徴です
中原氏
中国のインターネット利用者数は8億3000万人と膨大。普及率は約6割で、ネット市場はさらに拡大する余地がある(出典元:CNNIC 2019年2月)
インターネット利用者を年齢層別に分類すると、20代がもっとも多いものの、最近は30〜40代の層も増えており、「市場は徐々に成熟しつつある」(中原氏)のが特徴。
また、中国では比較的高所得層となる月収5000元以上(1元=17円換算で約85000円)の消費者によるインターネット利用割合が伸びているそうです。
中原氏は中国におけるSNSの利用状況にも言及しました。
中国では「WeChat」(ウィーチャット、LINEに近いサービス:編集部注)の普及率が高く、メッセージのやりとりに加え、知人間での少額送金や公共料金の支払いなど、生活のインフラとして浸透。「WeChatは、企業のマーケティングにおいても欠かせないプラットフォーム」と説明しました。
また、「Weibo」(ウェイボー、twitterに近いサービス:編集部注)や、日本でも人気の動画投稿SNS「Tik Tok」などが若年層を中心に流行しており、それらをプロモーションに活用する企業も増えているそうです。
中国ECのキーワードは「ニューリテール」
続いて中原氏は、中国小売業界のキーワードを上げながら、近年のトレンドを解説しました。
中国EC市場におけるキーワードの1つは、アリババグループ創業者のジャック・マー氏が2016年に提唱した小売の概念「ニューリテール」。
中原氏はニューリテールについて、「テクノロジーとデータを駆使し、オフラインとオンラインが融合した小売りビジネスを行うことで、より優れた顧客体験を提供し、小売事業者のビジネス課題も同時に解決するという画期的なもの」と説明しました。
具体的な事例としては、買い物から配達依頼までアプリで完結する即時配送の生鮮食品スーパーや、QRコードで個人認証を行う無人コンビニなどがあり、中国で利用が広がっているそうです。
「動画」「AI」「ライブコマース」もトレンド
中原氏は「Tik Tok(動画)」「AI活用」「ライブコマース」「WeChatミニプログラム」「ポップアップストア」といったキーワードも拾いながら、中国ECのプロモーションのトレンドを解説しました。
Tik Tok
日本でも若年層を中心に流行している動画投稿SNS「Tik Tok」。中国ではECなどのキャンペーンに活用する企業も増えている。
例えば、TOYOTAが現地で実施したダンス動画の投稿キャンペーンでは、再生回数が1億4000万回に達した実績がある。
「Tik Tok」はAIがユーザーの好みを推測し、好みに合った動画を次々と流す仕組みのため、企業アカウントのフォロワーが少なくても多くのユーザーに動画が視聴される可能性がある。
AI
AIをマーケティングに活用する動きも活発化している。
例えば、ケンタッキーフライドチキンがWeChat上の公式ページで、チャットボットを使った接客を展開。
ユーザーは音声で商品を注文し、アプリ内で決済まで行える。
LIVEコマース
中国では、日本よりもLIVEコマースが浸透している。
例えば、アリババが運営する「TMall」には、LIVEコマースの機能が実装されており、企業はプラットフォーム上で売り手を募ることが可能。
売り上げに応じて売り手にコミッションが自動的に支払われる。
WeChatミニプログラム
WeChatの中で企業が公式アプリ(APP in APP)を公開できる機能。
WeChatのアカウントと連動しているため、WeChatユーザーにリーチできる。
ポップアップストア
中国はオンライン広告の価格が高騰しており、広告だけで成果を出すのが難しくなっている。
そのため、ポップアップなどオフラインの施策と組み合わせてプロモーションを行う企業が増えている。
「Tik Tok」にアップできるような面白い動画を撮影できるブースを作り、動画投稿キャンペーンを行うことで、集客と拡散を図った成功事例などもある。
中原氏は、こうした中国のプロモーションツールのトレンドについて、次のようにまとめました。
中国はトレンドの変化が早いため、流行に乗るスピード感が重要です。話題の出来事があったら、SNSなどですぐに対応することがポイントになります。
また、流行文化は若者中心であり、ユーザーの共感を得るコンテンツを作ることが基本。
『Tik Tok』などで面白い動画を作ればモノが売れるわけではありません。売るための仕組みをしっかり設計する必要があります中原氏
中国デジタル市場で戦うポイントは「ロイヤルカスタマーを増やすCRM」
中国のEC市場で勝ち抜くために必要なこととして、中原氏は「口コミを発生させるロイヤルカスタマーを増やすことが肝になる」と強調しました。
中国では中途半端な予算で広告頼りのマーケティングやプロモーションを行っても成功しにくいと指摘。
デジタル施策だけではなく、ポップアップストアなども活用しながら、オフラインとデジタルとの密接な融合が重要だと説明しました。
優れたユーザー体験を通じ、本当の意味でブランドのファンになってもらうことが重要です。
商品を第三者に推奨してくれるようなロイヤルカスタマーを増やすには、まずは中国の消費者が何を考え、何を望んでいるかを知った上で、消費者自身ですら気付いていないインサイトを掘り起こし、それに響くようなブランディングやキャンペーンを実施することが必要だと思います
中原氏
中国でのテストマーケティングの方法
消費者のインサイトを知るためには、グループインタビューやテストマーケティングといった地道な施策が求められることから、
KEMBOが支援している企業では、中国のニュースアプリなどにバナーを掲載してA/Bテストなどを行うなど、さまざまな施策でユーザーのニーズを探っているそうです。
「WeChat」をCRMに活用する
ロイヤルカスタマーを増やすにはCRMも重要なポイントになります。
中国では企業がWeChat公式アカウントを開設し、WeChatのプラットフォーム上でコンテンツマーケティングなどを実施することが多いそうです。
CRMに取り組む際は、顧客体験を向上させるために、WeChatとTMallの会員情報を統合することも効果的とのこと。
WeChat上にファンを集め、そのファンにTMallで使えるポイントを付与することで、TMallで買い物をする顧客に直接販促を行うことも可能になるそうです。
ブランドのファンを獲得し、ロイヤルカスタマーへと育てていくには、顧客との接点を想定し、カスタマージャーニーマップを作って施策を考えるなど、日本でも実施しているような本格的なマーケティングの取り組みも必要です。
また、中国の消費者は賢いので、広告のキャッチコピーなどに簡単には騙されません。コンテンツマーケティングでロイヤルカスタマーを育成するには、顧客にとって価値がある情報を提供することが重要です
中原氏
KEMBO社が手掛けた中国EC・OtoO・訪日インバウンドのマーケティング事例
中原氏はセミナーの中で、KEMBOが支援したクライアントの中国におけるECやOtoO(online to offline)などのマーケティング施策の事例も公開しました。
マンダムのデジタル戦略
化粧品ブランドを展開するマンダムに対して、中国におけるブランドの現状分析からカスタマージャーニーの設計、クリエイティブ制作、ポップアップストアの展開、KOL(中国のインフルエンサー)を活用したプロモーションなどを統合的に支援。
プロモーション施策では、ポップアップストアに有名なKOLを呼び、その場でライブ配信を行いながら、オンラインで商品を販売することで成果を上げたそうです。
モンダミンの動画広告施策
口腔ケアの「モンダミン」のブランドの認知拡大を図るため、動画を活用したプロモーションを実施。
中国では、うがいをする文化が浸透していないことから、「モンダミン」でうがいをする動画を撮影してSNSで拡散。動画再生回数は582万回を超え、高い広告効果を実現したそうです。
動画の撮影はKEMBO社の社内スタジオで行いました。
老舗食品メーカーのブランド立ち上げを支援
社歴約100年の老舗食品メーカーが中国でブランドを立ち上げた際は、ブランドコンセプトの設計から市場調査、商品戦略まで支援。
中国ではまだ市場ができ上がっていない「低糖質の食品」のブランドを立ち上げ、新しいマーケットを切り開いています。
直近の半年間で月商が約10倍に伸びるなど、事業は急成長しており、今後2〜3年で業界トップになることを目指しているそうです。
最後に中原氏は、KEMBOはマーケティングとクリエイティブとITを組み合わせて対応できることが強みであることを説明。
「戦略の立案から運用の最適化、実際の制作まで、お客さまのデジタルマーケティング全般をサポートします」と話し、第一部を締めくくりました。
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「中国デジタルマーケティング最新事情 & 中小企業でも活用できる中国越境EC」前編いかがでしたでしょうか?
圧倒的な技術の進化と文化の違い大変学びになりますね。
引き続き後編はこちらから御覧ください。