こんにちは。EC実践会for futureshopの講師をしています水上 浩一と申します。2018年11月「SEOに強い!ネットショップの教科書」(マイナビ出版刊)を上梓させていただきましたが、その最初の打ち合わせを編集者さんとさせていただいた日が、ちょうどGoogleから「モバイルファーストインデックスをスタートさせます」とアナウンスがあった当日でした。
そのあとも「コア・アップデート」等の検索アルゴリズムの大きな変更により、ここ数年だけを考えても検索エンジンの変化に起因したビジネス環境の大きな変化がありました。今や、よく使うデバイスが「PC」から「スマホ」に移行したということすら知らない、スマホネイティブのユーザーが増えています。
「不確実性の高いビジネス環境」において「未来の予測」は実質不可能であり、無意味とすら言えます。環境変化は、Googleだけの話ではありません。
新型コロナ渦という、これまでのビジネスモデルが吹き飛んでしまうほどの、かつて人類が経験したことの無いインパクトの大きな出来事が起きました。先の見えない状況で明確な終結がイメージできず、トンネルの先に出口があるのかすら見えていない状況。
我々は、これまでの考え方を根底から変えていかなければならない場面に直面しています。
目次
ネットショップ「専業型」と「兼業型」の大きな違い
2009年2月にスタートし、2021年3月で13年目を迎えている「水上 浩一 EC実践会 for futureshop(以下、EC実践会)」には、現在、全国22地域のべ3500人の受講者さんにご参加いただいています。
ご参加いただいている受講者さんは、ネットショップを中核の事業にしている「専業型」の企業が多いのですが、なかには実店舗を運営しながらネットショップも運営していたり、観光地の施設で小売店を運営しながらネットショップを運営していたり、観光地でレストランを運営しながらネットショップも運営している、といった「兼業型」企業さんも少なからずいらっしゃいます。
「専業型」企業さんであれば、仮にネットショップの売上が落ちたとしても、固定費を下げたり、在庫の調整等でキャッシュフローを徐々に安定状態に持っていく対応が可能です。
一方、「兼業型」企業さんの場合は、今回の緊急事態宣言で実店舗運営が自粛になってしまうと、ある日突然「日銭」というキャッシュが入らなくなります。しかし、固定費は通常営業時と同様に流出していくので、何も手を打たなければあっという間にキャッシュが詰んでしまいます。
それを現すように実際、東京23区内の駅周辺にある飲食店が、次々とクローズしている状態を目の当たりにして愕然としています。関西の一等地にある駅直結ビルでさえ、飲食店フロアの店舗が次々と閉店して歯抜け状態になっています。これらは正直、企業努力でどうにかなるものではありません。
ネットショップ売上が「急には上がらない理由」と「上げられる理由」
飲食店の場合「それならテイクアウトをすれば良い」「ネット通販をやればよい」という意見もありますが、テイクアウトやネット通販には独自のノウハウが必要なので、行動に移せばすぐに売上が上がるかというと、それほど簡単な話ではありません。
「EC実践会」を受講されている「兼業型」企業さんの場合、実店舗が売れている場合は、ネットショップがおろそかになったり、力を入れていない場合もあり、売上全体に対しての「ネットショップ売上比率」が10%程度だったり、それ以下の場合も多くあります。
そんな店舗さんが、自粛になり実店舗をクローズすることになったから、急に「はい、じゃあネットショップの売上を今から3倍、5倍、10倍にしましょう」といっても、そういう訳にはいかないのです。
ネットショップの売上は「アクセス数(新規+リピーター)×転換率(コンバージョン率)×客単価」によって成り立っていますが、大抵の「兼業型」ネットショップの場合、新規のアクセス数が少ないか、リピーターが少ないか、ページのテコ入れをしていないので、「転換率が低い」もしくは「全部該当している」状態です。
そこから状況が変わったからといって、急に転換率を上げることもできない、アクセス数を増やすこともできないとなると、すぐにネットショップの売上を3倍、5倍、10倍にするというのは現実的ではない訳です。
ところがこの新型コロナ渦の状況下で、新規やリピーターのアクセス数を急に増やしたり、転換率を上げたりして、短期間で売上を数倍に引き上げた店舗さんが、ものすごい勢いで増加したのです。その成果手法は実にオーソドックスです。
先ほど「《不確実性の高いビジネス環境》において《未来の予測》は実質不可能であり、無意味とすら言える」と申し上げました。そして、ネットショップの売上は「アクセス数(新規+リピーター)×転換率(コンバージョン率)×客単価」によって成り立っているとも申し上げました。
だからこそ、アクセス数・転換率・客単価、すべての数字が低い状態からネットショップで売上を上げていきましょう!と言ってもそれはなかなか難しいという話もしました。
しかし、逆に考えれば、
- 新規アクセス数
- リピーターアクセス数
- 転換率
- 客単価
これらの数字が「0」では無いという前提において、いずれかの数字を上げることができれば売上は上がるとも言えるわけです。
売上アップのきっかけは「意味がないと思いこんでいた」施策
ある「兼業型」ネットショップさんの事例をご紹介します。
その店舗はこれまで実店舗中心に運営していたため、あまりネットショップには力を入れていませんでしたが、新型コロナの影響で急遽ネットショップに注力することになりました。
その施策の1つとして、メールマガジンに自分たちの想いを込めた内容を配信したところ、大きな反応があり、なんと2020年12月に最高月商記録を更新(ギネス月商)するという結果となりました。
その喜ばしい結果が出る前、この店舗さんは下記のような状況でした。
× 新規アクセス数
○ リピーターアクセス数
× 転換率
× 客単価
ページの制作は最小限度しかできず、コンテンツを増やすことはできなかったため、SEOで成果を上げることは目指せません。広告運用もリソースの問題で運用できずにいました。いますぐ客単価を上げるわけにもいきません。
そこで、リピーターに向けてメールマガジンを配信することに集中しました。実は、メルマガを配信しましょうとアドバイスをした当初は、「当店はリストがそれほどあるわけではないので、メルマガを配信しても効果は無いと思います」と悲観的な反応でした。
しかし、「仮に数百通だったとしても、想いをしっかりと伝えれば共感してくださって、購入してくれる方はいらっしゃると思いますよ。」と背中を押させていただきました。その結果が12月の最高月商記録の更新(ギネス)として出たのです。
この事例は、メールマガジンへの「リソースの一点集中」と「お客様とのコミュニケーションを密にとっていく接近戦」というランチェスター戦略を活用して成果を上げられた好事例です。
さらに、2021年2月にも「12月のようにメルマガを配信して、もう一回頑張ってみませんか?」という私の助言をお聞きくださりメルマガに注力したところ、また売上が上がってきたのです。実はこのお店には、ファンのお客様がしっかりといらっしゃったのです。ただ、そこに気づいていなかったために、ファンの方に向けた発信が十分に出来ていなかっただけだということが判明しました。
2月はテレビ番組にも商品が紹介され、そこから注文が増えて、なんと2月も最高月商記録を更新(ギネス月商)。このときはテレビ効果で、ファンの方だけでなく新規顧客の獲得にもつながりました。
おそらくメルマガに注力して配信していた効果から、一定数以上のアクセスを確保できるようになっていたことで、「テレビで紹介された商品カテゴリ名」で検索結果の1ページ目にランクインしていたことが功を奏したものと予測されます。メルマガを配信していたおかげでチャンスをモノにできた訳です。素晴らしいですね。
ネットショップでの非常識は、実店舗ので当たり前だった
もうひとつ事例をご紹介いたします。
総合衣料店の実店舗を運営している会社が、シニアファッションに特化したネットショップを運営していました。新型コロナの影響で営業自粛となり、自粛解除後も客足が戻らず実店舗の運営は厳しい状況が続いていましたが、ネットショップは逆に大盛況となっていました。
特に巣ごもり需要を機会と捉え、ルームウェアを中心に販売することで母の日、そして父の日の需要を多く獲得することができ、5月には前年対比150%アップの過去最高月商を達成。
成果要因としては、購買確率が高いと予測されるキーワードでのSEOや、ページの改修、メールマガジンの配信等、あらゆる施策を実施されていたことにあります。ここで特筆したい点は、「天候の変化」に対応して細かくページを修正していたことです。
暑い日が続いたときは、半袖シャツをトップページの上部に移動させて目立たせ、逆に雨天で気温が低くなったときは、上に羽織るカーディガンと半袖シャツを入れ替えるといった、こまめな配置換えをしていました。
「天候に応じて細かいページのチューニングを行っているんですね」と感心していると
「いや、こういったことは実店舗では当たり前のように行っていることなんですよ。私は実店舗経験が長いので、そういったことが染みついていて。肌寒い日に半袖のシャツが目立つところに掲載されていると気持ち悪くて仕方無いんですよ」とおっしゃっていました。
もちろんネットショップならではのノウハウはあります。検索エンジン対策やリスティング広告等の集客施策、ランディングページと呼ばれる転換率を上げるための専用の商品ページをつくることや、Google Analyticsでのアクセス解析等です。
そういった専門的な手法ばかりに目を奪われてしまうと、肝心のお客様が見えなくなってくる場合がありますが、この店舗さんは実店舗の経験をそのままネットショップに活用されていました。お客様と同じ目線で、できるだけお客様との距離感が近くなっていくような接客がネットショップでも重要だということを実感させられた出来事でした。
このお店の場合、総合衣料店の実店舗の中でも「得意分野かつ市場環境が今後伸びていきそうなシニアファッションに特化する」という専門性と、商品カテゴリの一点集中、さらには「腰曲がりズボン」等のユニークな商品構成による「差別化」という、こちらもランチェスター戦略の活用が成果のポイントとなっていました。
SEO+新解釈+フレームワーク化したハイブリッドノウハウ
この流れは2020年になってからさらに顕著な傾向となってきました。つまり、
1)ネットショップ運営ならではのWEBマーケティング(拙著「SEOに強い!ネットショップの教科書」)を最大限活用しながらも
2)EC実践会がノウハウの基盤として掲げている2009年に上梓した「ホームページなら小が大に勝てる! 儲かる会社 ランチェスター戦略 (ビジネスアスキー)でリリースさせていただいた「ランチェスター戦略」のWebマーケティング活用法。
3)これら二つの考え方を土台としながらも、これまでのオーソドックスな解釈を大胆に打ち破った新しい解釈や最新のノウハウのフレームワーク化をプラスして、定量データ分析によって検証していき、ハイブリッドなノウハウに昇華させることができました。
それが新刊「ネットショップ「勝利の法則」 ランチェスター戦略」(マイナビ出版刊)です。
ランチェスター戦略には、今回お伝えしてきた事例のように(1)“現場主義”に則った顧客インサイト分析という側面と、(2)“定量データ”に基づいた経営戦略の策定という側面を兼ね備えた「現場主義」と「大局観」の両面があることがわかります。
今回は「(1)“現場主義”に則った、顧客インサイト分析」について事例を紹介させていただきながら説明させていただきましたが、次回は「(2)“定量データ”に基づいた経営戦略の策定」についてお話をさせていただこうと思います。お楽しみに!
本記事を更に深める内容の水上 浩一氏を講師「ランチェスター戦略」セミナーレポートは近日公開
▼ ランチェスター戦略から学ぶネットショップ勝利の法則・第1回 はこちらから