モール退店から5年「最北の海鮮市場」が自社ECだけで売上を伸ばし続けられる理由
- 2019.10.302024.01.30
「モール内の価格競争が激しく、広告費や出店料もかかるため利益を確保しにくい。なにより、お客さまときちんと向き合えていなくて、このままではお客さまが離れてしまうのではないかという危機感がありました」
そんな思いから、EC事業の売り上げの約7割を占めていたモールから退店し、自社ECサイトの運営に専念したネットショップがあります。
北海道で採れた農産物や海産物、畜産物を販売している「最北の海鮮市場」。
モールを退店してから5年間、店舗運営の自由度が高い自社ECサイトの強みを生かし、手厚い接客や独自のサービスで売り上げを伸ばしてきました。
「最北の海鮮市場」が自社ECサイトだけで売り上げを伸ばし続けられる理由とは。
ショップの運営会社であるノース物産株式会社の鈴木洋一さんと、コンサルタントとして事業に伴走する株式会社トークロアの伊藤良さんにお話をうかがいました。
聞き手:株式会社フューチャーショップ カスタマーコンサルテーション部 稲生達哉
会社紹介
「最北の海鮮市場」・・・カニ、ホタテ、イクラ、ジャガイモ、トウモロコシ、牛肉、コメなど、北海道産の海産物や農産物、畜産物を販売しているネットショップ。
運営会社であるノース物産株式会社は1999年にEC事業を開始し、当初はECモールを中心に事業を行なっていたが、自社ECサイトに専念するため2013年までにすべてのモールから退店した。
現在は「futureshop」で構築した自社ECサイトだけで、リピート顧客を増やしながら売り上げを伸ばしている。北海道観光&グルメをテーマとした自社メディア「北海道へ行こう」も運営しており、農産物が育つ畑のようすや海産物の加工風景、現地のイベントなどを紹介することで、北海道の魅力を全国に発信している。
目次
- 1 売上高の7割を占めていたモールから退店した理由とは?
- 2 きめ細かい接客を行うために、自社ECサイトに専念
- 3 人気コンテンツ「生育日記」は顧客からのクレームから生まれた
- 4 ドローンで畑を空撮!?ネットショップをエンタメにする
- 5 バックヤードや事業基盤を整理することが、自社ECの成功につながる
- 6 “あえて高機能にしない” ユーザー目線で作ったECサイト
- 7 「接客できるECプラットフォームを探していた」futureshop導入の理由と経緯
- 8 ECの勉強に時間と手間を惜しまない。新しい知識を貪欲に学ぶ
- 9 売り上げを追うと、お客さまは逃げる。仕事を楽しめば、お客さまが集まってくる
- 10 インタビューを終えて
売上高の7割を占めていたモールから退店した理由とは?
株式会社フューチャーショップ・稲生達哉(以下、fs稲生):ノース物産さんは現在、自社ECサイトだけでネット通販を行なっていらっしゃいますよね。モールに出店せず、自社ECだけで売り上げを伸ばしているショップさんは、食品ジャンルでは特に珍しいと思います。
過去にはモールにも出店していたのでしょうか?
ノース物産 常務取締役 鈴木洋一さん(以下、ノース物産鈴木さん): 1999年に「最北の海鮮市場」をオープンし、当初はビッダーズ(現在はauWowma!)や楽天市場といったモールを中心にネット通販を行なっていました。
その後、事業方針を転換し、2013年までにすべてのモールから退店しました。
fs稲生: なぜ、自社ECサイトに専念しようと思ったのでしょうか?
ノース物産鈴木さん: あくまで弊社の場合ですが、モールではお客さまとしっかり向き合えていなくて、このままではお客さまが離れてしまうのではないか、という危機感があったからです。
商売の本質を見失っているのではないかという思いもありました。
fs稲生: お客さまと向き合えていない、商売の本質を見失っているというのは、どういうことでしょうか?
ノース物産鈴木さん: 例えば、モールのランキングのロジック(掲載基準)が変わるたびに、そのロジックを調べて、ランクインしやすい商品を作っていました。また、モールの検索アルゴリズムが変わるたびに、あれこれ対処法を考えていた。
いつの頃からか、お客さまに喜んでもらうことよりも、モールの中で他の店舗より目立つことに力を割くようになっていたんです。
fs稲生: モールの仕組みに振り回されてしまっていたと。
ノース物産鈴木さん: そうですね。
でも、お客さまに対するサービスとは、本来こういうものじゃないだろうという思いは常にありましたよ。どこを向いて仕事をしているのかと、悩むこともあった。
だったら、私自身が本当に満足できる店舗運営を実現するために、いっそのこと自社ECに専念しようと思ったんです。
それが2009年頃のこと。そこから約4年をかけて、モールから自社ECへとシフトしていきました。
きめ細かい接客を行うために、自社ECサイトに専念
fs稲生: モールから退店することで、売り上げが落ちることへの恐怖はありませんでしたか?
ノース物産鈴木さん: 2010年頃は、モールの売上高が会社の7割以上を占めていましたから、モールからの退店は弊社にとって大きな決断でした。
でも、長い目で見ると、店舗運営の自由度が高い自社ECサイトにリソースを集中することが必要だと判断しました。
もちろん、モールに出店するメリットはたくさんありますよ。
例えば、ランキングに掲載されれば売り上げが一気に伸びますし、良い広告枠を確保できれば、新規顧客をたくさん獲得できる。
集客や売り上げの爆発力がありますよね。そういった良さも、もちろん分かっているんです。
ただ、その一方で、価格競争が激しいですし、広告費や出店料もかかるので、なかなか利益を確保しにくかった。
そして、思うように接客を行えないことに、歯がゆい思いがあったんですよ。
EC市場が成熟し、消費者がネットショップを吟味するようになると、しっかりと接客を行っているネットショップしか生き残れなくなります。
そのことを日々、実感していたので、きめ細かい接客を行える自社ECサイトにシフトしました。
トークロア・伊藤良さん(以下、トークロア伊藤さん): 私が「最北の海鮮市場」さんのコンサルティングに携わるようになったのは2014年なのですが、当時、鈴木さんが「すべてのモールから退店した」とおっしゃったのを聞いて、ものすごくびっくりしたことを覚えています。
だって、2013年頃と言えば、モールに出店して売り上げを伸ばすのが当たり前でしたよね。モールの運営事業者各社も、流通額をどんどん伸ばすぞと息巻いていた。
そいった中で、モールから退店する判断を下されたのは、本当にすごいことだと思います。
人気コンテンツ「生育日記」は顧客からのクレームから生まれた
fs稲生: 自社ECサイトに専念するようになった2014年以降、自社ECの売り上げは5年間で1.7倍に伸びていますね。
ズバリお聞きしたいのですが、自社ECサイトの売り上げを伸ばすために、どのようなことを意識しているのでしょうか?
ノース物産鈴木さん: 漠然とした言い方になってしまいますが、お客さまに喜んでいただくために、色々なことをやっていますよ。
fs稲生: いくつか具体的に教えていただけませんか?
ノース物産鈴木さん: 例えば、トウモロコシやジャガイモなどが育っていく過程を記事にした「生育日記」を、自社メディア「北海道へ行こう」に掲載し、トウモロコシなどを予約してくださったお客さまにメルマガで通知しています。
弊社の社員が月1~2回の頻度で畑に足を運び、芽が出てきたころ、葉っぱが生い茂っているようす、収穫直前のトウモロコシなどを記事にしてお客さまに報告しています。
「生育日記」を書いている理由は、商品を予約してから届くまでの期間を、楽しい時間に変えたいからです。
「ピュアホワイト」という白いトウモロコシは、4月頃に予約の受付を開始しますが、実際に収穫するのは8月です。そのため、予約してから商品が届くまで4カ月近くお待ちいただく場合もあります。
以前は「まだ届かないのか」と、お客さまからお叱りを受けることもありました。
そういった声を受けて、お待ちいただいている間にも、何か出来ることはないかと試行錯誤した末に、「生育日記」が生まれました。
長く商売をしていくために大切なことは何なのか、お客さまが気付かせてくださったと思っています。
fs稲生: お客さんに楽しんでいただくために、知恵を絞り、コンテンツを作る手間を惜しまない。
言葉にするのは簡単ですが、実際にやり続けるのは大変ですよね。
トークロア伊藤さん: 鈴木さんは、おもてなしとか、お客さまを楽しませようという意識が、ものすごく高いんですよ。
私は、鈴木さんと食事をよくご一緒するんですが、飲食店で鈴木さんが「今の店員さんのもてなし方はすばらしいから、ネットショップに取り入れられないかな」なんて話を常にしていますからね。
ノース物産鈴木さん: 私はネット通販業界に入る以前、長いこと飲食店で働いていました。ですから、「客商売は、お客さまに喜んでもらわなきゃいけない」っていう考えが染み付いているんですよ。それは、インターネットで商品を売る場合でも、変わりません。
fs稲生: 「生育日記」のほかにも、バイヤーブログなど、面白いコンテンツがたくさんありますよね。商品が作られてから手元に届くまでの、ストーリーが伝わってきます。
ドローンで畑を空撮!?ネットショップをエンタメにする
トークロア伊藤さん: 「最北の海鮮市場」さんは、ネット通販をエンターテイメントにしていますよね。
この前なんて、ドローンで畑を空撮して、その動画をyoutubeにアップしていましたからね。
撮影に誘っていただいたんですが、鈴木さんは車のトランクから業務用のドローンを出してきて、飛ばすんですよ。「見て伊藤さん、すごいでしょ」って。
上空から畑を這うように撮影して、それをコンテンツにしてしまう。なかなか出来ませんよ、そこまで。
ノース物産鈴木さん: 畑を上から見てみたかったんですよ。
いつも、横からの写真しか撮れないので、上から見たらきれいだろうなって。北海道の広大さを、お客さまにも伝えたかったんです。
ドローンは免許も必要ありませんから、会社として投資するかどうかだけ。だったら、やってみようかなと。
「ジャガイモ畑をドローンで空撮!」 画像出典:youtubeより
トークロア伊藤さん: お客さまに喜んでもらうという姿勢は、商品作りにも生かされていると思います。
私は昨年、ハロウィーンの装飾に使うカボチャを「最北の海鮮市場」で購入しました。その商品には、カボチャを彫るナイフや、種を取るためのスプーン、ロウソクなどがセットになっているほか、カボチャの表情を掘るための型紙を何種類も無料でダウロードできます。
商品が届いたら、幼い子どもでもすぐに作れるようになっているんです。
商品をただ売るのではなく、利用シーンを想定して、商品が設計されています。
うちの子どもも、すごく楽しそうに作っていましたからね。細かいことなんですが、もしナイフや型紙が付いていなかったら、あんな風には楽しめませんよ。
ノース物産鈴木さん: お客さまが商品をどういう状況で食べるのか、誰と一緒に食べるのか、そういったことは常に考えています。
バックヤードや事業基盤を整理することが、自社ECの成功につながる
fs稲生: トークロアの伊藤さんは、2014年から「最北の海鮮市場」さんのコンサルティングを行っているそうですが、具体的にどのように携わっていらっしゃるんですか?
トークロア伊藤さん: ご契約いただいた当初は、物流を見直したいとのご要望をいただいていましたので、そのサポートから着手しました。
ただ、物流を見直すには、全体最適の視点から、EC事業全体の見直しが必要になることも珍しくありません。
ノース物産さんも、最終的には受注管理システムや顧客対応のフローなど業務全体を見直しました。
また、2014年当時は自社ECサイトが「最北の海鮮市場」を含めて2種類あったのですが、それを統合して現在の「最北の海鮮市場」にリニューアルすることもサポートしました。
ノース物産鈴木さん: 伊藤さんはECのフロントからバックエンドまで、幅広い知識をお持ちです。
ビジネスモデルの相談からシステム選びまで、さまざまな部分で助けていただきました。
トークロア伊藤さん: 鈴木さんは、やりたいことが明確に頭の中にありましたので、私は鈴木さんの壁打ちをサポートしながら、整理役に徹したというイメージです。
ECサイトを立ち上げたり、リニューアルしたりするときは、フロント側の設計に目がいきがちです。
でも、自社ECサイトを成功させるには、フロントとバックエンドの両方がしっかり噛み合うことが大切なんです。
そういった意味でも、ノース物産さんは2014年にECの事業基盤をしっかり整備したことが、その後の売上拡大につながっていると思います。
“あえて高機能にしない” ユーザー目線で作ったECサイト
fs稲生: 「最北の海鮮市場」は、ECサイトのデザインやUIも、かなりしっかり作り込まれていますよね。とても使いやすくて、私が言うのもおこがましいですが、相当レベルが高いと思います。ECサイトのデザインやUIは、鈴木さんが考えているんですか?
ノース物産鈴木さん: 私を中心に、皆で考えながら作っています。
fs稲生: スマホサイトも、すごく使いやすいですよね。実際、売り上げのスマホ比率は5割を超えています。
ノース物産鈴木さん: 「最北の海鮮市場」のお客さまは男性が約6割で、年齢層は40~50代がボリュームゾーンです。
そのため、パソコンに慣れ親しんだ人たちでも使いやすいデザインやUIを意識しました。
また、通信環境やスマホ端末のスペックがUIに与える影響を少なくするため、機能を出来るだけそぎ落としています。あえて、高機能にはしていません。
メニューの表示方法や、写真の見せ方なども工夫し、派手なビジュアル訴求よりも、シンプルなデザインや操作の分かりやすさ、商品の選びやすさを重視しています。
「接客できるECプラットフォームを探していた」futureshop導入の理由と経緯
fs稲生: 自社ECサイトのプラットフォームとして「futureshop」を2011年からご利用いただいています。あらためてお聞きするのは少し緊張するのですが、「futureshop」を採用していただいた理由や、感想などをお聞かせいただけますか?
ノース物産鈴木さん: 「futureshop」を選んだ理由を一言で表現するなら、私の要望を叶えてくれるプラットフォームだったからです。
システム選びで特に重視したのは、きめ細かい接客ができる機能を備えているかどうかでした。
私は慎重に物事を調べるタイプなので、じつはシステム選びに2〜3年かかりました。
さまざまなシステムを検討する中で、「futureshop」は接客機能が充実していますし、決済など外部ツールとも連携できるなど、もっとも満足できるプラットフォームだったので導入を決めました。
fs稲生: 接客機能を特に重視して、選んでくださったということでしょうか。
ノース物産鈴木さん: そうですね。私たちは、リアル店舗における接客と同等か、それ以上の接客を、ネットショップでも実現したいと思っています。
それを実現できる可能性がもっとも高いプラットフォームが「futureshop」でした。
▼futureshop機能一覧
ECの勉強に時間と手間を惜しまない。新しい知識を貪欲に学ぶ
fs稲生: 「最北の海鮮市場」のスマホサイトは今年4月から、「futureshop」のCMS機能「commerce creator(コマースクリエイター)」で運用しています。「commerce creator」の使い勝手はいかがでしょうか?
ノース物産鈴木さん: 使いやすいと思いますよ。
構築もスムーズに進みました。「最北の海鮮市場」のスマホサイトは、入社1年目の社員が4カ月ほどで構築しましたからね。
トークロア伊藤さん: 「commerce creator」を導入したこともそうですが、鈴木さんは新しいツールを積極的に試しますよね。
ノース物産鈴木さん: そうですね。店舗運営の自由度が高いことが自社ECサイトのメリットですから、良さそうなツールがあれば積極的に試すようにしています。やりたいと思ったら、スピード感をもってやる。だめだったらやめる。
fs稲生: 良いツールを見つけるには、やってみるしかないと。
ノース物産鈴木さん: そう思っています。
トークロア伊藤さん: 昔のEC業界には、そういった考えの方達が多かったような気がします。
とにかく何にでもチャレンジしてみようという雰囲気がありました。
でも、最近は新しいツールが登場しても、時間ないとか、難しいといった理由で、二の足を踏む人が増えているように感じています。新しいツールが次々に出て来て、やらなくてはいけないこともたくさんあるから、やむを得ない部分もあるんでしょうけど、せっかくすごく良いツールがたくさんあるのに、それを試さないのはもったない。
鈴木さんは、年に数回は東京や大阪などに足を運んで、セミナーや展示会などに参加して情報収集していますよね。
それこそ、フューチャーショップさんが開催しているセミナーにも、よく参加されています。
fs稲生: 情報収集を欠かさなかったり、新しいツールにチャレンジしたりする姿勢も、ノース物産さんの強みになっているんでしょうね。
▼commerce creatorとは
▼futureshop セミナー一覧。様々な視点でEC運営に有益な情報を提供中
売り上げを追うと、お客さまは逃げる。仕事を楽しめば、お客さまが集まってくる
fs稲生: お二人のお話をうかがって、「最北の海鮮市場」さんがお客さまから選ばれるのは、鈴木さんを筆頭に社員の皆さんがEC事業を楽しんでいるからなのかなと感じました。
ノース物産鈴木さん: 仕事を楽しんでいるというのは、その通りだと思います。
特に意識しているわけではありませんが、楽しく仕事をしていることが、結果的にお客さまとのつながりを強くしているのかもしれませんね。
仕事を楽しんでいると、お客さまの方から自然と、近付いてきてくださるような感覚があります。
逆に売り上げだけを追っていると、お客さまは逃げていくんです。
fs稲生: 今は、消費者がネットショップを選ぶ時代です。しかも、ショップのことを「好きか嫌いか」という感性で買い物をする消費者も増えています。そういう時代だからこそ、鈴木さんのように、EC事業を楽しむことが、お客さまから選ばれる理由になるのかもしれませんね。
トークロア伊藤さん: ありのまま、等身大で楽しんでらっしゃるのが、すばらしいですよね。
fs稲生: そろそろお時間が来たようです。名残惜しいですが、この辺りで締めたいと思います。
本日は貴重なお話と、楽しい時間をありがとうございました!
インタビューを終えて
今回のインタビューで特に印象的だったのは、鈴木さんが、まるで遊ぶように仕事をしている姿でした。
お客さまを楽しませるには、まずは自分が楽しむという考え方が、会社全体に浸透しているように感じました。
EC業界は今、先行きが見通しにくくなっています。将来について、不安を抱いている経営者や店長さんも、いるかもしれません。
でも、思い出していただきたいのは、ネットショップの運営は楽しいものだということ。
仕事を楽しむ。それがネットショップの個性や強みになり、お客さまから選ばれる理由になる。
「最北の海鮮市場」さんの取り組みは、そう確信させてくれるものでした。
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▼ショップ・最北の海鮮市場
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