食品ECの売上が5年で10倍!鳥取のリゾート「大江ノ郷」がオムニチャネルを実現した方法と成果

平飼いの養鶏場で採れた卵の通販を手がけ、現在は飲食店やホテルなどを備えた複合リゾート施設「大江ノ郷自然牧場」も運営している有限会社ひよこカンパニー(本社鳥取県)。

自社ECサイトの売上高が5年で10倍に増え、futureshopをご利用中の食品会社さまの中でトップクラスのEC売上高を誇る同社は、さらなる事業拡大に向けて2021年4月にオムニチャネルを開始しました。

食品やスイーツを扱う同社がオムニチャネルに取り組むことで、どのような成果が生まれているのでしょうか。

その答えを探るため、同社の小原社長にオムニチャネルを実現した方法と成果についてお話をうかがいました。

インタビューは前後編でお届けします。前編では、小原社長が1994年に創業してから2021年にオムニチャネルを開始するまでの、およそ20年にわたる成長ストーリーを紹介します。

後編では、自社ECサイトの売り上げを伸ばす施策やファン化の取り組み、そして、オムニチャネルを成功させた方法と成果について解説していただきました。

食品ECを手がけている企業さまはもちろんのこと、食品以外であっても、ECやオムニチャネルに取り組んでいる企業さまにとって必見の内容です。ぜひ、ご一読ください。

(聞き手:株式会社フューチャーショップ カスタマーコンサルテーション部 ECコンサルタント 八木智仁)

▼インタビューの後編は、保存版としてホワイトペーパーにまとめました

「大江ノ郷自然牧場」が取り組んでいるオムニチャネルの全容や、オムニチャネルを実現した方法と成果について詳しく紹介しています。

有限会社ひよこカンパニーとは?

1994年、当時としては珍しかった平飼い(ケージではなく、地面で飼う方法)の養鶏場を創業し、卵の通信販売を開始した。現在は主力商品の「天美卵」をはじめ、スイーツや加工食品、鳥取のおすすめ商品などを販売している。

EC事業を開始したのは2004年。2012年にはfutureshopを導入して定期コースの販売を強化した。

2021年4月には、futureshopのCMS機能「commerce creator」を導入するとともに、futureshop omni-channelも導入してオムニチャネルを開始。実店舗とECの会員情報やポイントを統合した。現在はオムニチャネルを軸にEC売上高を急速に伸ばすとともに、「大江ノ郷自然牧場」のファンを増やしている。

通販事業を拡大していくなか、2008年からは卵や加工食品を扱う直営店や飲食店をオープンした。さらに、宿泊施設や体験型施設なども加わり、複合リゾート施設「大江ノ郷自然牧場」として運営。「大江ノ郷自然牧場」は全国から年間36万人以上が訪れる人気スポットになっている。

ココガーデンと大江ノ郷ヴィレッジ

カフェ「ココガーデン」と複合施設「大江ノ郷ヴィレッジ」

大江ノ郷の宿泊施設

廃校になった小学校を改装し、宿泊施設をオープンした

1994年の創業当初から「卵の通販で生きていくと決めていた」

 フューチャーショップ 八木智仁(以下、八木):本日はよろしくお願いします!

養鶏業で創業し、現在は食品の通販やEC、そしてリゾート施設「大江ノ郷自然牧場」も成功をおさめている御社が、これまでどのようなことに取り組んできたのか。また、オムニチャネルをどのように実現したのか。EC業界の皆さんも気になっていると思いますので、ぜひ詳しくお聞かせください。

ひよこカンパニー 小原利一郎様(以下、小原様):わかりました。私のお話がEC事業者さんのお役に立てば幸いです。

八木:まずは、御社が創業した経緯から、お聞かせいただけますか? 

小原様:1994年、私が29歳のときに養鶏場「大江ノ郷自然牧場」を創業しました。

創業のきっかけは、平飼いで鶏を育てる養鶏場を作りたかったから。私は専門学校を卒業後、父が経営していた養鶏場に入社したのですが、その養鶏場はケージ飼い(ケージの中で鶏を飼育すること)で、工場のような環境で鶏を育てることに違和感を持っていたんです。

もちろん、卵を大量かつ安定的に供給するにはケージ飼いが適しており、そのやり方を否定するわけではありません。実際、養鶏業界はケージ飼いが主流です。ただ、私の価値観には合わなかったということです。

八木:ご自身が理想とする養鶏業を営むために、ひよこカンパニーを創業したのですね。通販を始めたのは、いつからでしょうか。

小原様:創業した当初から、通販で生きていくと決めていました。

平飼いは生産コストが高いため、卵の小売価格は1個100円ほどにしないと収支が合いません。ただ、その値段だと、スーパーなど一般的な流通チャネルに卸すのは難しいでしょう。

平飼いの養鶏を成立させるには、付加価値の高い商品を作り、高単価でも買ってくださるお客さまを見つけなくてはいけません。その解決策の1つが「通販」でした。

大江ノ郷自然牧場 小原利一郎社長 1

「大江ノ郷自然牧場」を運営している有限会社ひよこカンパニー 代表取締役 小原利一郎さん

訪問販売で顧客を開拓して「定期コース」に引き上げた

八木:小原さんが創業した1994年は、日本ではまだEC市場がほぼ存在しない時代でしたね。食品を通販で売る自信はあったのでしょうか。

小原様:当時、食品の通販と言えば「ふるさと小包」が圧倒的な存在でした。「ふるさと小包」は今で言うところのECモールのようなもの。創業当初の私は、「ふるさと小包」に出品すればそれなりに売れるだろうと考えていました。

八木:勝算はあったと。

小原様:いけると思っていたんですよ。でも、そんなに甘くはありませんでした。

1パック30個入りで約3000円の卵を「ふるさと小包」で販売したのですが、売れたのはわずか10ケース。まったく商売になりませんでした。

八木:現実は厳しかったんですね。

小原様:そうなんです。危機感を覚えた私は、まずはとにかくお客さまを増やすために、鳥取県内で訪問販売を行いました。

その日の朝に採れた卵をトラックに積んで、個人宅を1軒ずつ訪問しました。卵を試食していただいて、気に入ってくださったお客さまに、宅配でお届けする営業スタイルから始めました。

お客さまの中には、毎週届けて欲しいとおっしゃってくださる方もいらっしゃいました。今となっては、これが通販の定期コースのスタートです。

八木:とても興味深いエピソードですね。

小原様:お客さまが増えてきたら、地区ごとに商品をまとめてお届けする共同購入の仕組みも取り入れました。生協のような仕組みです。共同購入によって配送効率が上がり、ご近所さんの口コミでお客さまも増えていきました。

八木:対面でお客さまを開拓し、口コミで認知を広げていく。そして、商品を気に入ってくださった方がリピーターになる。商売の本質を捉えた取り組みのように感じます。ちなみに、当時はお一人で商売をされていたんですか?

小原様:はい。鶏の世話から営業、出荷まで、すべて一人で行っていました。ですから、最初の数年間は販売エリアが鳥取県東部に限られていて、ほぼ口コミのみでお客さまを増やしている状態でした。

大江ノ郷自然牧場 小原利一郎社長 2

雑誌「dancyu」に取り上げられて卵が大ヒット、1999年に通販を本格化

八木:通販のお客さまは、どのように全国へと広がっていたったのでしょうか。

小原様:雑誌「dancyu」に弊社の卵が取り上げられたことをきっかけに、知名度が上がり、全国からご注文をいただけるようになりました。

鳥取県の食材を紹介する企画があり、取材を受けたんです。「dancyu」の編集部の方が弊社の卵を買ってくださったことが取材のきっかけでした。

「dancyu」に掲載されたことをきっかけに、他の雑誌などからも取材の打診を受けるようになり、連鎖的に認知が広がっていきました。

八木:その頃も、まだお一人で事業を行っていたのですか?

小原様:通販事業が拡大してきたことを受けて、1999年に初めて社員を採用しました。それまで私が行っていた宅配事業を社員に任せて、私は通販に専念するようになりました。

コンテンツマーケティングでファンづくり

八木:通販のお客さまを増やすために、どのような施策を打っていたのでしょうか。

小原様:主に新聞広告や新聞折込チラシで、新規のお客さまを獲得していました。過去に購入してくださったお客さまにダイレクトメールを送付し、休眠顧客を掘り起こすこともありました。

当時のダイレクトメールは、私の手作りでしたので、思い返せばとても荒削りなものでした。でも、レスポンス率は20%ぐらいあって、通販のお客さまの増加に寄与していました。

また、商品にニュースペーパーを同梱する取り組みも、リピーターの獲得に効果がありました。ニュースペーパーは商品を紹介するだけでなく、弊社のことをより深く知っていただくために、会社の理念や取り組みなどを伝えることも意識していました。

空気や水が綺麗なこの土地で育てた鶏だからこそ、美味しい卵が採れること。弊社が平飼いにこだわっている理由。そういったことを丁寧に伝えることで、理念に共感してくださるお客さまを増やしていくことが大切だと考えていました。

20年以上前に始めたニュースペーパーは、現在も月1回ほど発行しています。

八木:当時から、ファンを増やすためのコンテンツマーケティングに取り組んでいらっしゃったのですね。

小原様:創業当初から、お客さまとのつながりを大切にしてきました。

コミュニケーションの方法は冊子やダイレクトメール、メルマガ、アプリなど、時代とともに変わっていますが、お客さまとのコミュニケーションが通販の肝であることは、いつの時代も変わらないと思っています。

1つ、お客さまとのエピソードをお話ししますね。2000年ごろ、ニュースペーパーを読んだお客さまが、激励のお手紙と、ご自身の農園で採れたリンゴを送ってくださったことがありました。私のことを、遠くに住んでいる親戚のような気持ちで見守ってくださっていたのかもしれません。とても嬉しい出来事であり、今でも忘れられない出来事です。

大江ノ郷たより創刊号

大江ノ郷たより 2023年5月号

ニュースペーパー「大江ノ郷たより」の創刊号(写真左)と2023年5月号(写真右)。20年以上にわたり月1回発行し、会社の理念や取り組みなどを顧客に伝えている

2004年に楽天市場に出店し「週間ランキング1位」獲得も手応えをつかめず

八木:EC事業は、何年に始めたのでしょうか。

小原様:2004年に開始しました。まずは楽天市場に出店し、翌2005年に「WISECART(ワイズカート)」というサービスを使って自社ECサイトを開設しました。

ECという新たな販売手法に注目が集まり始めていたので、販路を拡大するためにEC事業に参入しました。ただ、食品をインターネットで購入する消費者が、まだ少なかった時代です。経営の軸はあくまでもオフラインの通販であり、ECにはそれほど力を入れていませんでした。

八木:EC事業の売れ行きは、いかがでしたか?

小原様:結論から言えば、手応えを掴むことはできませんでした。

楽天市場に出店してほどなく、弊社のプリンが楽天市場のプリンジャンルで週間ランキング1位を獲得したんです。

でも、売上高は期待はずれでした。「1位なのに、こんなものか」とがっかりしたことを覚えています。当時は食品ECの市場規模がそれほど大きくなかったため、週間ランキング1位でも、オフラインの通販事業と比べたら売上高のインパクトは小さかったですね。

八木:ECに期待しつつも、手応えを掴みきれていなかったと。

小原様:そうですね。

それから数年間は楽天市場に出店していましたが、出店料や広告費などの負担が重く、受注処理に手間がかかることも悩みの種でした。

また、楽天市場でセールやポイント還元を行うと、弊社から直接買ってくださるお客さまが相対的に損することも受け入れがたかったです。

そして何より、楽天市場ではリピート率が思うように伸びませんでした。おそらく、ECモールで買い物をするお客さまは、そのモールで買い物をしているという感覚が強く、店舗そのものの固定客にはなりにくかったのでしょう。楽天市場の会員さんに対して、ECモールを通さずにプロモーションを行うこともできませんから、ファン化は難しいと感じました。

そういった課題も踏まえて、ECモールに注力するのは当時の弊社にとっては得策ではないと判断し、2008年に楽天市場から撤退しました。

2000年代は自社ECもほぼ手付かず

八木:ECモールでは手応えを掴めなかったとのことですが、自社ECサイトの売れ行きは、いかがでしたか?

小原様:じつは、自社ECサイトは、さらに売れていませんでした。

当時は広告をほぼ使っていませんでしたし、SEOなどの集客手段も行っていませんでした。ECサイトの更新頻度も低く、自動販売機のような感覚で運営していましたから、今思えば売れないのは当然ですよね。

八木:ECを始めた後も、オフラインの通販がメインだったのですね。

小原様:はい。弊社のお客さまは年齢層が比較的高いこともあり、ECを強化する必要性が低かったことも、ECに注力していなかった理由の1つでした。当時、新聞広告には自社ECサイトのURLすら記載していませんでしたから。

大江ノ郷自然牧場 小原利一郎社長 3

定期コースの受注とCRMを効率化するためfutureshopを契約

八木:ECに力を入れていなかったとのことですが、2012年にfutureshopを契約してくださった理由は何だったのでしょうか。

小原様:futureshopを契約したのは、定期コースの注文や顧客管理を効率化したかったからです。

当時、通販の定期コースのお申し込みは主に電話やハガキで受けていました。当時のカートシステムでは、「3ヶ月コース」や「6ヶ月コース」などをご注文いただいた場合、自動的には契約が更新されず、継続するにはお客さまが再度注文する必要があったんです。

この仕組みでは定期コースの離脱率が高くなりますし、受注処理や顧客管理にも手間がかかってしまいます。ですから、定期コースの受注をオンライン化し、運用を効率化するために、定期購入機能が備わっているfutureshopを導入しました。

2012年頃は、リピート通販専用のカートシステムはいくつかありましたが、一般的なECにも対応できて、かつ、定期購入機能も備わっているカートシステムは、ほとんどなかったと記憶しています。futureshopは機能が多く、食品ECサイトの導入実績も豊富だったため、futureshopを選びました。

大江ノ郷自然牧場 自社ECサイトの定期コース

futureshopの定期購入機能で「頒布会」を実施している

EC売上高が5年で10倍。コロナ禍がEC事業の転機に

八木:futureshopを導入していただいてからは、定期コースを軸に、自社ECサイトの売上高が伸びていますね。特に直近5年間は、売上高が10に増えるなど、目を見張る成長率です。

小原様:じつは、2019年まではEC事業に本気で取り組めていませんでした。オフラインの通販やリゾート施設の業績が好調だったこともあり、ECの必要性を、そこまで強く感じていなかったんです。

2020年春以降のコロナ禍が、EC事業の転機になりました。

消費者が外出を自粛し、弊社の直営店やリゾート施設の客足も大きく落ち込むなかで、EC事業の強化が喫緊の課題になったんです。

八木:本当に大変な状況だったと思います。

小原様:当時は危機的な状況ではありましたが、結果的にコロナ禍があったからこそ、EC事業の強化に踏み切れたという意味では、ピンチをチャンスに変えることができたと思っています。

当時、ECサイトのポテンシャルの大きさを実感できた出来事があったので、お話しさせてください。

2020年4月に、関西ローカルの朝の情報番組で、弊社の卵が取り上げられました。ステイホームでも楽しめるお取り寄せグルメとして紹介されたんです。

すると、番組放送の直後からECサイトに注文が殺到し、1日で1000件以上も受注しました。通販のように電話で対応することもなく、自動的に注文が次々と入ってくる。その経験によってECの可能性を痛感し、これからはECが絶対に必要だと確信しました。

八木:そのときの成功体験が、ECに本腰を入れるきっかけになったのですね。

小原様:はい。そこから私はECについて、本気で勉強を始めました。

さまざまな勉強会に参加し、他社のECサイトも徹底的に研究しました。それまで代理店に任せきりだったネット広告も自分で運用して、成果を出す方法を模索しました。

私はEC歴こそ長いですが、本気でECに向き合うようになったという意味で、2020年が「EC業界1年生」だと思っています。

小原社長とfutureshop八木の対談

100年続く企業を目指してオムニチャネルを決意

八木:2021年3月には、アプリをリリースし、オムニチャネルも開始しました。EC事業を強化するだけでなく、なぜオムニチャネルに踏み切ったのでしょうか。

小原様:オムニチャネルの構想は、2010年代の前半から持っていました。

2008年に直営店をオープンしたことを皮切りに、飲食店や宿泊施設などの複合リゾートを作っていくなかで、リアルとECが連携すること、すなわちオムニチャネルがいずれ必要になると思っていたんです。

リゾート施設の来場者が帰宅した後に、ECサイトで商品を購入する。逆に、ECサイトを利用しているお客さまが、リゾート施設を訪れる。ECとリゾート施設がシームレスにつながることでこうした循環を生み出し、「大江ノ郷自然牧場」のお客さまを増やしていくことが理想だと考えていました。

ただ、オムニチャネルを実現するために何をすれば良いか、具体的にイメージできていませんでした。また、オムニチャネルに必要なシステムを個別に開発すると、莫大な費用がかかりますから、現実的ではないとも思っていました。

八木:それでもオムニチャネルを決断したのは、なぜですか?

小原様:コロナ禍でリゾート施設の来場者が減ったことは、1つのきっかけになりました。

弊社は100年続く企業を目指しています。そのためには、いずれはオムニチャネルを実現しなくてはいけません。いずれオムニチャネルを行うなら、今しかない。そう決断し、社内システムの刷新に乗り出しました。

大江ノ郷自然牧場 小原利一郎社長 5

インタビューの後半では、「大江ノ郷自然牧場」が取り組んでいるオムニチャネルの全容や、オムニチャネルを実現した方法と成果について詳しく紹介しています。また、新規顧客を獲得する方法やリピーターを増やすCRM施策、ファンを増やすコンテンツマーケティング、アプリのUIへのこだわりなどもうかがいました。保存版としてホワイトペーパーにまとめましたので、ぜひダウンロードしてご一読ください。

【後編の主な内容】

  • 「大江ノ郷自然牧場」が取り組むオムニチャネルとは?
  • オムニチャネルのシステムを構築した方法
  • アプリ制作会社やECプラットフォームの選定基準
  • 自社 ECのサイトの集客方法とCRM施策
  • オムニチャネル開始後2年でEC会員が5倍以上に
  • アプリのUI・UXでこだわったポイント
  • 制作パートナーと組むことの重要性とは?
  • futureshopに対する要望と本音