EC物流を改善して業績アップ!物流のプロが解説する顧客視点の物流DX【前編】


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2020年春以降、コロナ禍でEC市場に追い風が吹き、オンラインの受注を大きく伸ばした企業も目立ちました。一方で、「出荷件数が増えて物流の現場が疲弊している」「非効率なロジスティクスが成長のボトルネックになっている」といった物流の課題も健在化しているようです。

そこで弊社は、EC物流の課題の解決方法を、物流の専門家4人に解説していただくオンラインイベント「SHIFT FUTURE vol.3 中小企業こそ重要なEC成長と物流DX」を2021年2月に開催しました。

株式会社トークロアの伊藤良さん、トランスフィード株式会社の長井隆典さん、オムニチャネルコンサルタントの逸見光次郎さん、株式会社リンクスの小橋重信さんの4人をお招きし、EC物流を改善するポイントや、物流をアウトソーシングする際の注意点、さらには、物流改善を通じてEC事業の利益を生み出す方法まで、EC物流の本質論を解説していただきました。


✔ 物流を外部に委託するべきか悩んでいる

✔ 物流コスト高騰への対応を悩んでいる
✔ 物流アウトソーシングの現状を知りたい
✔ 物流の作業効率を改善する方法を知りたい
✔ 物流コストと在庫の最適化について知りたい
✔ デジタルで進化した物流の最新事情を知りたい

こうした悩みを解決するヒントが満載だった、オンラインセミナーを前後編でレポートします!

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    第1講座 EC成長と物流:自社対応とアウトソーシング

    第1講座は、株式会社トークロアの伊藤良さんが講師を務め、EC物流のアウトソーシングを検討すべきタイミングや、EC物流をアウトソーシングするメリット・デメリットなどを解説してくださいました。


    株式会社トークロア代表取締役
    伊藤 良(いとう りょう)氏
    EC黎明期に大手企業のEC責任者を経験し、ポータルサイトの構築、海外EC大手の日本展開プロジェクト等にも参画。その後、EC物流企業の経営幹部としてサービス立ち上げから年商10倍以上に引き上げるまでの成長の礎を築く。その後も様々なベンチャー企業と多くのサービス開発に携わり、2014年に株式会社トークロアを設立。50以上の新規事業に携わった経験則を活かし、「少数精鋭企業の課題解決屋」として上場企業4社を含め新規事業の参謀役を務める。各企業の成長ステップに合わせた実践的かつハンズオンの指導には定評がある。尚、クライアントの依頼があれば、スープカレーの路上販売を誰よりも大きな声で売るなど、40代を超えた今でもノリの良さへの評価が高い。

    アウトソーシングを検討するタイミングは?

    伊藤さんは、EC事業者が物流をアウトソーシングする際は、「アウトソーシングの目的を明確化することが重要」と強調。その上で、EC事業者が物流をアウトソーシングする主な目的を解説しました。

    物流を自社で行うか、アウトソーシングに切り替えるかは、重要な経営判断です。物流をアウトソーシングする際は、まずは目的を明確化してください(伊藤さん)

    ▲ 物流をアウトソーシングする目的を踏まえ、アウトソーシングの必要性やタイミングを判断することが重要

    伊藤さんは、現在の物流業界には主に4種類の物流会社があることを説明し、物流の委託先を決める際は、アウトソーシングの目的に合致した物流会社を選ぶことが重要だと強調しました。

    1. 専門領域特化型: 化粧品、食品、アパレルなど特定の分野を得意としている
    2. フルフィルメント型: ささげ、コールセンター、受注処理など、物流以外も請け負う
    3. フレキシブル: EC事業者ごとに物流サービスを個別対応する
    4. サブスク型: 物流サービスを標準化し、たくさんの企業の物流を請け負う(FBA、楽天SL、はぴロジ、オープンロジなど)

    ▲ EC事業者が物流を委託する主な目的。課題を解決してくれる物流会社を選ぶことがアウトソーシングを成功させるポイント

    アウトソーシングで物流コスト削減できる?

    物流をアウトソーシングする目的として「物流コストの削減」を重視するEC事業者さまも多いでしょう。この点について伊藤さんは、「物流を委託しても、物流コストは大幅には下がらない場合も多い」と指摘しました。

    EC物流にかかるコストの大半は『配送料』と『保管代』が占めます。配送会社の送料や倉庫代が高止まりしている現在は、物流をアウトソーシングしても物流コストを大幅に削減するのは難しいでしょう(伊藤さん)

    ただし、小規模なEC事業者さまの場合、初期費用や固定費がかからないサブスクリプション型の物流サービスを使うと物流コストが下がる可能性があるそうです。

    ECを始めたばかりの企業や、ECの月商が数百万円規模の企業は、サブスクリプション型の物流サービスを使うと固定費が下がり、荷物1個あたりの物流費を削減できることもあります(伊藤さん)

    物流アウトソーシングのデメリットとは?

    伊藤さんは物流をアウトソーシングするデメリットも解説。特に注意が必要なポイントとして「柔軟な物流体制を組みづらい」ことを挙げました。

    物流会社は複数の荷主から業務を請け負うため、サービスをある程度共通化する必要があり、荷主ごとに業務をカスタマイズすることには限界があります。例えば、アパレルの丈直しや、手書きのメッセージカードの同梱など、複雑なサービスには対応してもらえない場合もあります。

    「物流をアウトソーシングする際は、デメリットにも目を向けることが大切です」(伊藤さん)

    ▲ 物流をアウトソーシングする際は、デメリットにも目を向ける必要がある

    物流会社とコミュニケーションする際の注意点

    物流のアウトソーシングを成功させるには、物流会社と良好な関係を築くことも大切です。伊藤さんは、物流会社とコミュニケーションする際の荷主の注意点として、5つのポイントを挙げました。

    物流会社とコミュニケーションする際の荷主の注意点 5つのポイント

    1. 時間を守り、物流会社の時間も大切にする
    2. ルールを守り、イレギュラーな対応もルール化しておく
    3. 販促の計画や入荷予定などを、早めに物流会社と共有する
    4. 定例MTGを行い、時々倉庫を訪問する
    5. 物流現場のミスを責め過ぎない。褒めて伸ばす

    第1講座の最後に伊藤さんは、物流はECにおける「最後の接客」と強調し、上手にアウトソーシングを活用して欲しいと訴えかけました。

    物流業務はECにおける、お客様に対する最後の接客です。物流の委託先選びは重要な経営判断。EC事業者さまが物流において何を重視するのか、その基準を明確にした上で、目的に合った委託先を選びましょう(伊藤さん)

    第2講座 物流の改善ポイントと物流体制の仕組化成功のコツ

    第2講座ではトランスフィード株式会社の長井隆典さんが講師を務め、EC物流倉庫における管理者の役割や、物流現場の作業効率を上げる仕組みの作り方について、実例を踏まえて解説してくださいました。


    トランスフィード株式会社代表取締役
    長井 隆典(ながい たかのり)氏
    EC事業会社におけるfulfillment(Logistics/CS/Studio/System)の統括マネージャーとして新規立上げと運用構築を多数経験。特にEC物流においては、部門を跨いだ課題可視化やKPI設計による物流戦略立案を担当し拠点統廃合及びWMS導入責任者を務める。2017年にトランスフィード株式会社を設立。荷主及び物流事業者として培ってきた経験を基に、物流改善に特化したコンサルタントとして活動。主にフロー分析によるオペレーションの可視化やシステム導入による省人化を行っており、近年は管理者の育成にも力を入れている。

    EC物流倉庫における管理者の業務

    長井さんは、物流管理者の役割は会社の利益を増やすための「仕組み」を作ることだと説明。物流管理者は、従来の業務の進め方をゼロから見直す柔軟性が求められると強調しました。

    物流管理者の役割は、倉庫内の仕組みを構築し、属人的なオペレーションからの脱却を目指すこと。そのためには、トレンドの変化に対応する柔軟性が求められます(長井さん)

    倉庫内業務を仕組み化するには、「 定性情報のアップデート 」「 定量情報でのレポーティング 」「 物流KPIによる把握と改善 」がポイントだと説明しました。

    ①定性情報のアップデート

    倉庫内業務で数値化できない情報は、関係者全員が理解できる言葉や表現を使って可視化し、目的を明確にする。

    ▲ 庫内レイアウトの作成、業務マニュアルの作成など、数値化できない情報(定量情報)をアップデートする

    ②定量情報でのレポーティング

    関係者全員が数値によって倉庫内業務の状況を把握できるよう、業務内容を数値化する

    ▲ 保管効率(充填率)など定量情報を数値化する

    ③物流KPIによる把握と改善

    KPI(重要業績評価指標)を設定し、潜在的な課題が可視化することで、取るべき行動や成果を明らかにする。

    ▲ 物流倉庫における主なKPIは、国土交通省が「物流事業者におけるKPI導入の手引き」を公表している

    荷物の動きに合わせて責任の所在を明確化

    EC物流の課題の1つに、倉庫業務がブラックボックス化し、物流倉庫で「誰が、何を管理しているか」を商品部やマーケティング部などが把握できなくなることがあります。

    長井さんは物流業務がブラックボックス化する原因として、販売チャネル(実店舗、自社EC、ECモール)ごとに責任者が異なる縦割り組織になっていることや、商品管理の方法が実店舗とECで異なるなど、組織体制に問題がある場合が多いと指摘。倉庫業務のブラックボックス化を避けるには、倉庫内の業務を「入庫」「保管」「出庫」「棚卸」の4つの機能で切り分け、それぞれに担当者をつけることが効果的だと説明しました。

    「荷物の動きに合わせて倉庫内業務を『入庫』『保管』『出庫』『棚卸』の4つに分類し、それぞれ責任者を配置すると、誰が、どの業務を管理しているのかを把握しやすくなり、ブラックボックス化を防げます」(長井さん)

    物流改善のケーススタディー

    続いて長井さんは、物流業務を改善する方法について、長井さんが実際に支援したアパレル企業の実例を踏まえて解説しました。

    新型コロナウイルスの影響で実店舗の営業が制限され、代わりにECサイトの受注が増えたアパレル事業者さまの事例です。

    ECの出荷が増えたことに対応するため、実店舗の販売スタッフを物流倉庫に配置転換するなど、急場をしのいでいたそうです。しかし、出荷が急増したことで倉庫内業務のオペレーションが混乱、誤出荷が発生し、物流コストの増加も課題でした。また、物流業務に配置された販売スタッフは、現場で何をして良いか分からず悩んでいたそうです。

    ▲ アパレルECの物流改善の事例

    現状のヒアリングで問題を発見

    このアパレル事業者さまの物流を改善するために長井さんが最初に行ったことは、物流の問題点を洗い出すためのヒアリングです。センター長、倉庫の社員、パート作業員のそれぞれにヒアリングし、課題を整理して解決策の方向性を決定しました。

    ▲ 物流の問題点を洗い出すためのヒアリングを行い、課題を整理して解決策の方向性を決定

    そして、物流倉庫における「設備」「業務」「システム」の3つの軸で、倉庫内業務の定性化と定量化を行うことで課題解決に導いたそうです。

    ①「設備」の可視化

    対策の1つ目は、倉庫内の設備の位置を可視化すること。倉庫内のレイアウト図を修正し、マテハン(倉庫内の機材)が置かれている場所や、ピッキングのルートなどを加筆しました。さらに、荷物が入ってくる動線を赤い矢印、荷物が出て行く動線を青い矢印で示し、荷物の動きを可視化することで倉庫作業に慣れていないスタッフがピッキング作業を行えるようにしました。

    ▲ 倉庫内の設備の位置や、ピッキングルートを可視化

    「設備」を可視化した効果

    • 庫内で使用しているマテハンを一望できる
    • 庫内の機能(業務)を一望できる
    • 現場作業に慣れていない作業者に概要を説明出来る
    • 現場作業に慣れていない作業者がピッキング作業を行える
    • 作業者の配置を俯瞰して行える
    • 改善の議論に使用できる
    • 5S活動の導入のきっかけになる

    ②「業務」の可視化

    2つ目の施策は、物流倉庫における業務フローをビジュアル化すること。業務の流れをフローチャートで記載し、さらに、業務ごとに手順書やマニュアルを作りました。※画像をクリックすると大きくなります

    「業務」を可視化した効果

    • 流れを可視化することで、現状と次に行うべき作業が明確になる。
    • イレギュラー業務の優先順位をつけられるようになる。
    • 属人的な作業からの脱却
    • 作業方法が標準化することでミスが減り、物流品質が安定化する
    • 納品リードタイム短縮

    ③WMSのデータを使ったKPI設定

    3つ目の施策は、WMS※のデータを活用し、倉庫内作業のKPIを設定すること。「荷役費」「総生産性」「保管効率」「棚卸差異率」などの数値を毎日計算し、数値の推移を見ることで生産性の変化を把握。そして、生産性が変化した理由を特定することで、業務改善や生産性向上につなげました。

    ▲ WMSのデータを活用し、倉庫内作業のKPIを設定
    ※WMSとは:Warehouse Management Systemの略。入出荷・保管など、倉庫における「庫内物流」の正確性・スピードアップを実現する仕組みのこと

    KPI設定の効果

    • 現場では気づきにくい問題の発見
    • 問題の具体的な状況共有
    • コミュニケーションの促進
    • 課題の優先順位付け
    • 合理的で公平な評価
    • 保管/荷役コストの削減

    長井さんは、業務の定性化や定量化を行い、KPIを設定することで、物流の現状把握を行いやすくなると指摘。さらに、物流KPIを社内で共有すると、倉庫側の社員と、倉庫と連携している部署の社員がコミュニケーションを取りやすくなることもメリットだと強調しました。

    倉庫内作業の定性化と定量化を行うと、物流KPIが社内の共通言語となり、物流のあるべき姿を議論しやすくなります。また、各業務のブラックボックス化を防ぐこともできます(長井さん)

    第2講座の最後に長井さんは、物流KPIを設定すると現状が明確になり、物流改善の方向性が定まることから、「改善に向けて、活気を伴ったオープンな現場を作ることができる」と強調し、第2講座を締めくくりました。

    前編はここで終了です。
    後編は「 利益を生み出す物流の仕組み作り 」「 オムニチャネルに取り組む企業が目指すべき物流のあり方 」など注目の内容が満載。また、登壇者4人によるパネルディスカッションもレポートします。

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