ECサイトの新規立ち上げやリニューアルを行うとき、ECプラットフォームの選択は重要な経営判断です。初期費用の安さや、機能の数だけで選ぶのは失敗のもと。ECシステムの比較・検討を十分に行い、EC事業の売上目標や、目指しているビジネスモデルを実現できるシステムを選ばなくてはいけません。
また、EC市場のトレンドを踏まえ、時流に合ったマーケティング施策を実行できるシステムを選ぶ、という視点も重要でしょう。
今回は、ECプラットフォームを契約するまでの流れや、サイト構築の方法として代表的な4つのパターンの特徴を踏まえ、システムの選び方を解説します。
目次
契約までの3ステップ
ECプラットフォームを選ぶ際は、次の3つのステップで進めると失敗が少なくなります。
- ステップ1 ECサイトを立ち上げる(またはリニューアルする)目的を明確にする
- ステップ2 サイト構築の方法として代表的な4つのパターンを比較・検討し、自社のビジネスに合った方法を選ぶ
- ステップ3 システム開発ベンダーを比較し、EC事業の目的を実現できるシステムを選択する
ステップ1やステップ2を飛ばして、初期費用や機能だけでシステムを選ぶと、ECサイトを立ち上げてから「実現したいサービスを行えない」「サポートを受けられず機能を使いこなせない」「売り上げが伸びたら、従量課金の月額費用が高騰して収益を圧迫している」といった失敗を招きやすくなりますので注意してください。
ステップ1 まずはECサイトの「目的」を明確に
最初に取り組むべきことは「ECサイトを立ち上げる(またはリニューアルする)目的」を明確にすることです。ECサイトを立ち上げて、どのようなビジネスを手がけたいのか。お客さまに対して、どのような価値を提供したいのか。そのことを社内でしっかり議論した上で、それを実現できるECプラットフォームを選ぶことが重要です。
例えば、オムニチャネルに取り組みたいのであれば、ECサイトと実店舗の会員証やポイントを統合することが必要です。あるいは、ECサイトのリピーターを増やすことを重視するのであれば、会員ステージ機能や定期購入機能が不可欠でしょう。
ECサイトで実現したいことを具体的にイメージすると、システム選びの基準もおのずと明確になります。
将来の売上目標や、運用フローも見据える
EC事業の売上目標は、システム選びの判断基準に影響します。なぜなら、ECサイトの売上高やトラフィックに応じて、一定の料率でシステム手数料が発生するECプラットフォームもあるためです。そういった従量課金制の製品は、ECサイトの売上規模が大きくなると、システム利用料が高額になるリスクがあります。特に、初期費用が無料のカートシステムは、売上高に応じた手数料や決済手数料が高めに設定されていることもあるため注意が必要です。
ポイント
EC事業を大きく育てたい企業は、目標とする売上規模に到達した時に、いくらの料金が発生するのかをシミュレーションしてシステムを選択しましょう!
ECサイトを立ち上げた後は、商品登録や注文処理、商品ページの追加・更新、ブログなどのコンテンツの投稿など、さまざまな運用業務が発生します。こうした運用業務を円滑に進めるためには、管理画面の使い勝手や、ページ更新の利便性などもシステム選びの重要な判断軸になります。
その他にも、取扱商品数やカテゴリー、社内エンジニアの有無、外部システムとの連携の必要性なども、システム選びの判断基準に影響します。それらも事前に確認しておくと、システムベンダーとの商談がスムーズに進みます。
- サイト構築や運用に使える予算
- ECサイトを立ち上げる時期
- 実装したい機能
- 実現したいサービス
- 目指しているビジネスモデル(単品リピート通販、オムニチャネルなど)
- 将来、達成したい売上目標
- 取扱商品のカテゴリーや商品数
- ECサイト以外の販売チャネル(実店舗やカタログなど)
- 社内エンジニアの有無や開発スキル
- ECサイトを立ち上げた後の運用フロー
- 基幹システムや倉庫管理システム(WMS)などシステム連携の必要性
ステップ2 サイト構築の4つのパターンの特徴を理解しよう
ECサイトを作る目的を整理し、実現したいサービスや予算、スケジュールなどを確認したら、次はサイト構築の方法を検討しましょう。
自社ECサイトを立ち上げる方法は、主に4種類あります。それぞれの特徴やメリット・デメリットを理解し、自社のビジネスに合った方法を選ぶことが重要です。
自社ECサイトを構築する4つの方法
- フルスクラッチ
- ECパッケージ
- SaaS/ASP
- オープンソース
大規模サイト向きの「フルスクラッチ」
「フルスクラッチ」とは、ECサイトのシステムをゼロから作る方法です。ECサイトの構造やデザイン、機能、データベースなどを独自に構築します。オリジナルの機能やサービスを提供する大規模サイトに向いています。
フルスクラッチのメリット
フルスクラッチの最大のメリットは、機能開発の自由度が高いこと。ECサイトの機能を自由に設計できるため、理想のサービスを実現しやすくなります。また、基幹システムやWMS(倉庫管理システム)など、外部システムとの連携もフルスクラッチであれば対応しやすいでしょう。
フルスクラッチのデメリット
システムをゼロから構築するため、莫大な初期費用がかかります。初期費用は安くても数千万円、大規模なサイトでは数億円規模になることも珍しくありません。サイト構築の期間は比較的長く、1年以上になることもあります。
また、ECサイトを立ち上げた後のセキュリティ対策やメンテナンス、機能追加に伴うシステム改修などを自社で管理・実施する必要があるため、そのためのエンジニアや開発予算を確保する必要があります。
基本機能を改善して使う「ECパッケージ」
「ECパッケージ」とは、ECサイトの構築や運用に必要な機能が一通りパッケージ化されているソフトウェアです。ベースとなるソフトウェアを使ってECサイトを立ち上げるため、フルスクラッチよりも初期費用を安く抑えることができます。初期費用やライセンス費用、メンテナンス費用、システム管理費などが発生し、初期費用は標準パッケージで数百万円、カスタマイズを行う場合は1000万円以上かかるのが一般的です。
ECパッケージのメリット
標準機能だけでECサイトを構築することもできますし、機能の一部をカスタマイズすれば独自のサービスを実現できる点はECパッケージのメリットです。
また、ソフトウェアのメンテナンスやカスタマイズは、パッケージベンダーが行うことも多く、その場合はEC事業者がエンジニアを雇用する必要はありません。ECサイトのセキュリティ対策やサーバ管理をパッケージベンダーに委託できる場合もあります。
ECパッケージのデメリット
ECサイトに実装した機能が、数年で陳腐化するリスクがあります。これはフルスクラッチにも共通する課題ですが、ECサイトを構築した時点では最新の機能を備えていても、数年後には機能が古くなり、EC市場のトレンドに合わなくなる可能性があります。新しい機能を追加するには、その都度システム改修が必要になり、費用も発生します。
最新機能を常に使える「SaaS・ASP」
「SaaS・ASP」とは、クラウドで提供されているECプラットフォームを、EC事業者がインターネット経由で利用し、ECサイトを構築・運用する方法です。「ASPカート」や「ECカート」などと呼ばれることもあります。
機能や費用は製品ごとにさまざまで、初期費用は無料のものから数十万円まで幅があります。
なお、「SaaS」は「Software as a Service」の略語で、「ASP」は「Application Service Provider」の略語です。
「SaaS・ASP」のメリット
「SaaS・ASP」は初期費用がフルスクラッチやパッケージよりも圧倒的に安く、 ECサイトを立ち上げるまでの期間も短いため、ECサイトを比較的手軽に立ち上げることができます。
また、「SaaS・ASP」のシステムはクラウド環境で提供されるため、バージョンアップやメンテナンス、セキュリティ対策などをシステム提供元が行うのが一般的です。そのため、利用者(EC事業者)は常に最新バージョンのシステムを使用できます。
「SaaS・ASP」のデメリット
「SaaS・ASP」は原則として、機能をカスタマイズすることはできません。また、基幹システムやWMSなど、外部システムとの連携に制限があることもあります。
ライセンス費用が無料の「オープンソース」
「オープンソース」はソースコードが公開されているソフトウェアです。システム開発の技術があれば、無料でECサイトを構築することができます。
オープンソースのメリット
ソフトウェアのライセンス費用がかからないため、プログラミングの技術があれば無料でECサイトを構築することができます。ソフトウェアをカスタマイズして独自の機能を実装したり、第三者が開発・公開したプラグインを使って機能を追加したりすることが可能です。
オープンソースのデメリット
サイト構築やセキュリティ対策を自社で行う必要があるため、高い技術力が求められます。特に、「オープンソース」はソースコードが公開されているためサイバー攻撃の標的になりやすく、セキュリティホールを放置すると不正アクセスなどのリスクが高まります。
また、第三者が開発したプラグインに不具合が発生した場合、プラグインの開発者に対応を依頼する必要があるなど、システム管理の難しさがあります。
「オープンソース」はライセンス費用が無料ですが、サイト構築やメンテナンスを外部の制作会社に委託する場合、その都度費用が発生します。
そして、ECサイトを構築する際に、どのような機能を開発すべきか、誰かが指示してくれるわけではありません。自分で情報をキャッチアップし、システム開発の要件定義や、開発完了後の確認テストも自社で行う必要があります。開発に伴う打ち合わせの回数も多くなり、思いの外、時間をとられてしまうケースがあることにも注意が必要です。
ステップ3 システムベンダーを比較し、自社に合ったシステムを選択
ECサイトを構築する方法を選択したら、システムベンダーの選定を行います。システムベンダーを比較し、EC事業の目的を達成できるシステムを選びましょう。システムベンダーを比較する際の判断基準(比較軸)として、まずは次の10個のポイントを確認してください。
システムベンダーの比較軸
- 機能 必要な機能を備えているか、実施したいサービスを実現できるか
- 料金体系 料金体系は自社の売上規模やビジネスモデルに合っているか
- 契約前の対応 システム選びの相談に親身に対応してくれるか
- システムの拡張性 オプション機能の有無や、外部システムとの連携の可否
- セキュリティ体制 システム開発ベンダーのセキュリティ体制は十分か
- サポート体制 システムの使い方や、不具合対応などについて質問や相談ができるサポート体制はあるか
- システムの汎用性 EC事業の成長フェーズ(売上規模)が上がっても使い続けられるか
- 運用 管理画面は使いやすいか、機能を使いこなせるか
- カスタマーサクセス 売り上げを伸ばし続けるための支援を受けることはできるか
- トレンド 時流に合ったシステムか、時流に合った機能を備えているか
「カスタマーサクセス」もシステム選びの基準に
ECサイトは「立ち上げること」がゴールではありません。ECサイトを立ち上げた後に、売り上げをしっかり作り、利益を確保し続けることが重要です。
売り上げや利益を伸ばし続けるには、ECサイトの機能を使いこなし、適切なマーケティング施策を打ち続けることが必要です。そこでポイントになるのが、システム開発ベンダーによる「カスタマーサクセス」です。
例えば、サポート窓口はチャットやメールだけではなく、電話でも対応してくれるのか。また、セミナーやコンサルティングサービスなどを通じて、売上拡大を支援してもらえるか。こうした視点でベンダーを比較することも、EC事業を成功させるポイントです。
EC担当者さまの中には、社内に相談できる相手がいなかったり、同業者との横のつながりを持ちにくかったりする方もいるのではないでしょうか。そういった担当者さまは、何かあったときに気軽に相談できるサポート窓口を持っているシステムベンダーを選ぶことで、安心してEC事業に取り組める環境を整えると良いでしょう。
レビューサイトを参考にする
ECサイト構築システムを選定する上で、システムを実際に利用しているユーザーのレビューが参考になります。例えば、IT製品に関するレビュー投稿サイト「ITreview」というサイトでは、futureshopもユーザー様から数々のレビューをいただいております。他社製品のレビューも掲載されていますので、比較検討の材料にお役立てください。
お客さまとの“つながり”を創出できるシステムを選ぶ
最後に、2021年以降のEC市場において、ECプラットフォームを選ぶ際に重視すべき判断基準をお伝えします。それは、お客さま(エンドユーザー)との“つながり”を創出できる機能を備えたシステムを選ぶということです。
具体的な機能としては、会員ランクやポイント機能、VIP特典機能といった「ファンマーケティング」に役立つ機能のほか、CRM施策のベースとなるデータ分析機能、チャット接客機能、SNS連携機能などが該当します。
お客さまとの“つながり”を創出する機能が重要になっている背景には、リピーターの育成がこれまで以上に重要になっていることがあります。
2020年から今年にかけて、新型コロナウイルスの影響で巣ごもり需要が高まり、オンラインショップを利用する消費者が増えました。2020年のEC市場(物販)は前年比21.7%増と大幅に拡大。EC事業者さまが新規のお客さまを獲得できるチャンスが広がっていることは間違いありません。一方で、新しいECサイトが次々と立ち上がり、EC市場の競争は激しさを増しています。そういった市場環境では、顧客獲得コストが上がるため、顧客との関係構築によって新規顧客をリピーターへと育成することが、長期的な売上拡大には不可欠となります。
アフターコロナのEC市場では、お店のファンを増やしていくことが一層重要になります。ECサイトを通じて、お客さまに手厚い接客を実現できるのか。そういった視点からもECプラットフォームを比較してみてください。