CRMの基本と成功に向けたポイントとは
- 2019.03.132024.01.30
CRMという言葉を聞いたことがあるでしょうか。聞いたことがない、あるいは聞いたことはあるものの、「なんとなくは知っている」「今さら知らないとは言えない」という方も多いかもしれません。
顧客とその情報を知らずして、ビジネスは成立しません。
顧客ごとの情報を分析し、継続的で良好な関係を築くことで、収益拡大を図るための仕組みをCRM(CustomerRelationship Management)といいます。日本語で「顧客関係管理」などと訳されるCRMとは一体どのようなものでしょうか。
そこで株式会社フューチャーショップと株式会社プラスアルファ・コンサルティングは合同で、ECサイトを運営する方々を対象にCRMとは何なのか、実際にどのように活用するべきなのか、をテーマにセミナーを開催しました。
運用でくじけないCRM 〜メルマガ配信だけに終わらない成功するCRMの考え方セミナー〜
※終了いたしました
目次
日本のEC市場は成長しているのに、商品が売れない?
セミナーでは今まで20年にわたってCRMに携わってきた、フューチャーショップR&D推進室の水岩が登壇し、現在の日本のEC市場とCRMについて解説しました。
株式会社フューチャーショップ R&D推進室 水岩 雄一(ミズイワ ユウイチ)
外資系CRMベンダーのセールスコンサルタントを経て、テーマパーク運営会社におけるCRMシステムの企画/導入のプロジェクトマネージャーを担当し、ユーザーの立場でCRMを推進。その後、国産CRMベンダーにおいてプロダクト企画責任者やエバンジェリストなどを歴任。2018年7月よりフューチャーショップに入社。
現在はR&D推進室に所属し、EC市場のリサーチ、futureshopにおける新機能の企画、CRM並びにデジタルマーケティングに関するセミナー講師やブログの執筆など、幅広く活動を続けている。
冒頭で2017年における日本のEC市場の規模は16兆円であり、これまで右肩上がりで順調に推移してきているということ。
さらには国内の個人商品額におけるネットショッピングの割合は28%であるが、英米における同割合が50%を超えていることから、国内EC市場についても今後まだまだ伸びていくと予想されていることなどを説明しました。
ネットショップで商品が売れなくなってきた理由
ECの市場は成長傾向にあるものの、店舗運営をされているお客さまからは「ネットショップで商品が売れなくなってきた」というお声をよく耳にします。
実際、フューチャーショップに寄せられるお客さまからも、同様のご相談は増えています。
- ネットショップの参入障壁が低くなり、同じような商品を売る競合店が増えてきたこと
- モール内のセール・キャンペーンでは、価格のみが唯一の競争要因となっていること
- 上記に伴い広告費が高騰していること
- 高い広告費を使って得た新規顧客も、単に価格面だけにつられて購入したという側面が強く、リピート購入に繋がっていないこと
つまり今までと同じ手法ではECサイトの売り上げはあがらない
水岩
ECサイト運営をしていると、新規顧客獲得のために広告費の投入はやむを得ない部分もあります。
ただ今までと同じ戦略をとっていると、顧客の獲得単価は高くなるばかりです。現状のままではせっかく新規顧客を獲得しても、競合の方が安ければリピート購入はありません。
ネットショッピングモールに広告を出していれば売れるという時代は、もう終わったと言っても過言ではないでしょう。CRMはこのような状態を解決するための施策なのです。
モールの都合や価格競争に巻き込まれないように自社ECで熱烈なファンを獲得したい
水岩
ではいま一度CRMについてご説明しましょう。CRMは、顧客との関係性を強化することで、顧客のLTV(Life Time Value=顧客生涯価値)を最大化するための手法です。
つまり「顧客関係管理」を効率化するものですが、そのためには購入者個々の動向を丁寧に分析し、お客さまに継続的に購入してもらうことを目指さなければなりません。
それと共に自社の商品やサービスの良さをしっかりと知ってもらい、自社の熱烈なファンになってもらう必要があります。「ネットショッピングモールの都合や価格競争に巻き込まれないよう、自社ECサイトをしっかりと構築したい。
その上で、自社の商品やサービスの良さをきちんと知ってもらい、ファンを増やしていきたい」というECご担当者様は増えてきました。
そのような背景の中、今再びCRMが注目されているのです。
CRMを形作るキーワードと基本的な考え方
このように述べ、同時にCRMを形作る「パレートの法則」と「1:5の法則」を紹介。
この2つの法則から、新規顧客向けの施策以上に既存顧客の維持・リピート施策に注力していく方が、効率的に利益に繋げることができると説明しました。
パレートの法則とは
ECサイトに当てはめると、売上の上位20%の顧客が、すべての売上額の80%をもたらすという事象で「2:8の法則」とも呼ばれる。
全ての顧客に対し平等に接するのではなく、20%の優良顧客を優遇することで80%の売上が維持でき、高い費用対効果を追求することができるという考え方。
自社にとっての優良顧客と、そうでない顧客をしっかりと区別して対応を行っていくという点がポイント。
1:5の法則とは
既存の顧客にリピート購入してもらうためにかかるコストと比較して、新規の顧客を獲得するためにかかるコストは統計的に5倍になるという法則。
既存顧客はすでに商品を購入しているため、購入への精神的ハードルが低く、中長期的に商品を購入する優良顧客となる可能性が高いと考えられる。
CRMとMAの関係
CRMとMAとを混同してお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、MAはCRMを実現するためのツールのひとつです。
MAを使ってCRMを実現していく上ではメリットデメリットも存在するため、使いどころを見極めて効果的に使うことが重要です。
顧客の属性や行動を把握し、それに合わせてメールを送るといったコミュニケーションの自動化ができること。
【 デメリット 】
ルールに従って定型化されたコミュニケーションしかできないため、ルールの設定とセグメントの選定を誤ると、逆効果になってしまうことも。
コミュニケーションルールの決め手「カスタマージャーニー」
CRMとMA運用のキモとなるのが、コミュニケーションルールであるならば、どのようにしてそのルールを取り決めれば良いのでしょうか?
セミナーでは、その答えとして「カスタマージャーニー」をご紹介しました。
カスタマージャーニーとは、一言でいうと「顧客が購入に至るプロセス」で、検討・購買・利用の3つのプロセスに分けられます。この検討・購買・利用という顧客の時間軸にそって、顧客が各プロセスにおいて本当にやりたいことを整理して、顧客の購買を支援していくことが重要になります。
CRMを行うなら是非知っておきたい、成功のポイントとは?
本セミナーではCRM施策を成功に導くポイントとして、施策を実行する際の目標とセグメントの設定が重要になると説明。
具体的な成功事例と失敗事例も合わせて紹介しました。
CRMは短期で結果がでるものではない
CRMの目的は「顧客のLTVを最大化する」ということであり、「短期で結果を出すこと」ではありません。
新規顧客ではなく既存顧客に対する施策であるCRMは、中長期的な展望を持って設計していく必要があります。
CRMについての誤解
ー CRMシステムは魔法の杖ではない ー
CRMに限った事ではないのですが、システムの導入ですべての問題が解決すると誤解されている方も多いようです。
セミナーでは、「CRMシステム導入=CRMの実現ではない」ということ。
システムの導入はあくまで手段であり、目的は顧客に熱烈なファンになってもらって顧客のLTV(Life Time Value=顧客生涯価値)を最大化すること。そのために目的の整理と、その目的を実現するためにシステムをどのように使うのか?が重要であるとお話ししました。
優良顧客と一般顧客を区別(セグメント)
CRMでは、優良顧客に喜んでもらえる施策か?特別扱いになっている施策か?を考えることが重要になります。
MAツールを使用して全てのコミュニケーションを一律に自動化するのではなく、優良顧客と一般顧客をしっかりと区別した上で、優良顧客に対しては、個別に丁寧なコミュニケーションを行うことを心がけましょう。
セミナーでは優良顧客を対象としたイベントなど、コストをかけた対面でのコミュニケーションも有効であること。
一般顧客に対しては、何をすれば優良顧客に引き上げることができるのか?を念頭に施策を設計しなければならないこともお話ししました。
CRM成功のポイントまとめ
- CRMの目的は新規顧客ではなくリピーターを増やすこと。
- 少数でもいいので熱烈なファンを増やしていこう。
- 中長期的な視点を持ち、すぐに結果がでなくてもあきらめない。
- 一斉メールの乱用などすべてのコミュニケーションを自動化しない。
- 優良顧客にはコストをかけて丁寧なコミュニケーションを行うことも重要。
毎回数千万円規模の赤字を出すイベントしかし参加者の満足度は非常に高く、「口コミ」効果や高リピート率で収益は右肩上がりキャンプ場を貸し切って、優良顧客向けにビールとフードのテイスティングイベントを実施。
参加スタッフにはイベント会社を使うことなく、社員総出で対応している。
イベント参加者は、初年度40人ほど。参加費用は一人あたり2万円と割高にも関わらず、開催5年目で5000人規模に成長を見せる。
主催側は毎回数千万円の赤字だが、丁寧な接客と濃いコミュニケーションで顧客のファン化に成功し、「上質な口コミ」と「強固なリピーター層」を獲得。順調に販売本数を伸ばすことができている。
某クラフトビールメーカーさまの事例
名指しでセミナーに招待されたにもかかわらず、申し込み時になってまさかの参加拒否。
対象者をセグメントすることなく、メールを全配信した悪例
ある会社から「ぜひ参加を」と、セミナー案内が個人宛に届いた。興味があったため申し込んでみたが、いざ参加する段階になると「同業者のため、受講できない」という回答。
これは、名前や営業担当者名をメールに埋め込んで、システムから一斉配信しているせいで起こった問題。
確かにCRMやMAツールによる自動化は便利だが、しっかりセグメントやコミュニケーションを設計しないと、ファンどころかアンチになりかねない。
このようなことがないように、くれぐれも注意したい。
フューチャーショップ水岩の体験事例
KPIの確認
水岩
どのような事業でも、目標値の設定は必要です。組織やチームで設定した最終的な目標を達成するための過程を計測・評価する中間指標としてKPIというものがあります。
ECサイトの最終的な目的は、売上を上げることです。そのためにはまずKPIを確認し、自社の中でどこが一番弱いのかを把握する必要があります。
例えば、アクセス数を増やすには「集客」施策、初回購入を促すなら「初回購入促進」施策。リピート購入の安定には「定期購入促進」施策を考えねばなりません。優良顧客を優遇し、さらなるリピートにつなげるための施策を展開する。顧客を放置しすぎると離反するため、それを防ぐための掘り起こし施策も重要です。
フューチャーショップの水岩はこのように述べ「ECの9つの指標」を示し、各指標に対する問題の洗い出しとボトルネックの解消施策も説明。セミナーの前半を締め括りました。
顧客分析や対応を自動化する、MAってどんなもの?
続いて登壇したのは、株式会社プラスアルファ・コンサルティング執行役員の山崎氏。
CRMを効率よく実現するための考え方やMAの活用方法を次のように解説してもらいました。
株式会社プラスアルファ・コンサルティング執行役員 カスタマーリングス事業部 副事業部長 山崎雄司(ヤマザキ ユウジ)
大学卒業後、大手テレマ会社を経て2011年株式会社プラスアルファコンサルティング入社。一貫してCRMの推進をライフワークとし活動を続けており、大手から中小にわたるさまざまな企業向けに電話やウェブによるマーケティング支援/CRMプロジェクトを経験。そのノウハウを活かし数多くの通販企業向けに、データマイニング/テキストマイニングなどIT技術を駆使したデータ活用から、マーケティング現場の付加価値を向上させるMAツールの企画・推進に従事している。
MA(マーケティング・オートメーション)とはマーケティングのデータ分析や、施策を自動化・効率化することを目的としたシステムを指します。
顧客の声を分析して理解することは重要ですが、データ量が増えると扱いきれず、結果的にCRMができていないことも多々あります。そこでMAを導入して自動化すれば、リソースを施策検討などに回せるようになります。
MAでPDCAを高速で回す
CRMで顧客に喜んでもらえる施策を考えるのは、単純で簡単なことではありません。そのため顧客情報を分析する段階で、膨大なデータ量により疲弊し思考停止してしまう。
メールマガジンもセグメントして送った方が良いと分かってはいても、そこまで手が回らないから、一斉送信で済ませてしまう。
今まではこのようにツールを導入しても、いざCRMを実行するとなると、データ抽出や加工に時間を取られ過ぎていました。
MAを導入すれば、データ分析作業や顧客をセグメントしてメールを送り分けることを一部自動化することができます。こうしてリソースを確保すれば、PDCAを高速で回せるようになるでしょう。
CRM施策にはセグメントが重要
山崎氏
CRM施策考案にはセグメントが非常に重要です。
「誰に」「何を」「いつ」「どう送るのか」などを設計・実装できないと、やりたいことが実現できません。
ではどのようにセグメントするのか?例えば「購入履歴」「日付」「行動履歴」「アンケート結果」などでセグメントして、条件ごとの施策を考案します。
「3回以上購入した顧客の誕生日の何日前にこれを送る」というように、掛け算のように組み合わせて施策実行の条件を作っていくわけです。この条件は自社の商品やサービスだとどうなるか、それぞれにイメージして作ってみて下さい。
ある健康食品会社での、サンプル購入時のステップメール配信タイミングを見直した例をご紹介しましょう。
メールを見た時の印象は、商品を受け取る前と後ではおのずと違ったものになるはずです。
そこで日数の起点を発送日から配達完了日に見直し、購入者には必ず商品が手元にある状態でメールを受け取ってもらうようにしました。こうして顧客の体験を統一できるとデータの精度が高まり、後の施策の精度も高まってきます。
またアンケートの回答率を改善させるため、シナリオを分岐させて回答の無かった顧客にはSMSを送信するように変更しました。
メールと異なりSMSは圧倒的に到達率が高く、回収率が以前の2倍になりました。
SMSでもアンケートが取れない顧客にはDMを送るなど、オンラインとオフラインをまたいだシナリオも検討しています。
このショップさんは販促イベントなどを頻繁に行っており、1人の顧客が20~50の告知を受け取っていました。
そのためレスポンス率の悪化が、大きな課題になっていました。
このショップさんはリアル店舗を展開されており、接客は非常に強みとする部分でもあります。つまり自社の強みである接客力を生かすには、顧客に店頭に来てもらう必要があるわけです。
そこで店頭に来てくれそうな顧客をセグメントして、セグメントごとに施策を設計することにしました。
まず10万人以上の会員を「よく使う店舗」「購入頻度」「購入回数」「購入金額」「顧客ランク」などでセグメント。
次にSMS、メール、DMなど、どのチャネルでどう伝えるのかを店舗と連携して施策を行いました。セグメントを細かくすると、10万件を超えるデータであっても施策の対象となる顧客数が100名を切ることもあります。
このようにセグメント設定を細くすると、「データを使えきれない」「非効率な施策」になるとお考えの方もいらっしゃるかもしれません。しかし結果としてお客さまを細かく選別し、顧客体験を優先するなど特別感を演出することで、業績がどんどん伸びている事例は多いのです。
ここだけは押さえておきたいCRMシステム選びのポイント
最後に山崎氏は、金額や機能の多さでCRMシステムを選ぶのは危険と説明。
重要なのは、CRMで何をしたいのか、それができるシステムなのかを見極めることであるとのこと。
CRMは簡単ではないが、しかしそれを乗り越えることで、事業の体質が大きく変わる。ぜひCRMに取り組んでもらいたいと締めくくりました。
- 機能で選んではいけない「何をするのか?」が重要
- 料金でも選んではいけない
- 「システムは機能の多少によって価格がきまる」
- 目的で選ぶが正解!
- 業務の実現性で選択すべし
まとめ
今回のセミナー参加者さまからも聞かれましたが、ネットショップの利益率アップについてのお悩みをよく耳にします。
楽天市場やAmazonなどのモールに頼らずに、自社のECサイトに注力して利益率をアップさせたい。そのためにサービスや商品の良さを知ってもらい、ファンを増やすためにCRMを導入したい。これがCRMが注目される大きな理由のひとつです。
このセミナーレポートを参考に、CRMに取り組むことをご検討いただければ幸いです。
この記事が気に入ったら、いいね!で応援お願いします!