2019年4月、Appleはトラッキング防止技術「ITP2.2」を、最新のiOSやmacOSに搭載すると発表しました(現在はすでに実装済)。
ITPと聞くと、あまり馴染みがないように思うかもしれませんが、アフィリエイトを行うEC事業者にとっては、大いに関係のある問題です。
ITPによって、アフィリエイトの収益に影響が出るおそれがあるからです。
とはいえ、そもそもITPとはなにか、具体的にどのような影響があるのかを詳しく知らない方は多いと思います。
そこで本記事では、アフィリエイトを扱うEC事業者に向けて
- ITPの概要と導入目的
- ITPによるアフィリエイトへの影響と対策
- ITP2.2までのアップデートの流れ
ITP2.3についての記事を公開いたしました。こちらの記事も合わせてお読みください。
目次
アフィリエイトの仕組みを改めておさらい
ITPの話をする前に、まずはアフィリエイトの仕組みをざっくり紹介します。
ITPを理解する前提知識として必要なので、改めておさらいしましょう。
アフィリエイトは「成果を正しく計測する」ことが重要
アフィリエイトとは、成果報酬型のインターネット広告のことです。
EC事業者(広告主)は成果が発生した分だけ広告費を支払い、アフィリエイターは成果に応じた報酬を得られます。このように成果によってお金が動くビジネスモデルのため、「成果を正しく計測する」ことが極めて重要になります。
そこで登場するのが、Cookie(クッキー)です。
Cookieとは、ユーザーが訪問したサイトの閲覧履歴や会員情報などを、ブラウザに一時的に保存する機能です。
いわばCookieは「サイトを訪れたユーザーの会員証」のようなもので、それをもとにアフィリエイトの成果を正しく計測できます。
Cookieは2種類(ファーストパーティ/サードパーティ)
Cookieには大きく2種類あり、それぞれ発行元や特徴が異なります。
1 ファーストパーティCookie
ユーザーが訪問したサイトのサーバから、直接発行されるCookieです。
精度の高いトラッキング(ユーザーの行動の追跡・記録)が可能ですが、他のサイトを横断することはできません。
ログイン時のフォーム入力の省略や、カートの中身の保持などに用いられます。
2 サードパーティCookie
ユーザーが訪問したサイト以外(第三者)のサーバから発行されるCookieです。
主にサイト内のバナー広告をクリックしたときに付与されます。他のサイトを横断してトラッキングができるため、追跡型の広告配信や、アフィリエイトの成果の計測などに用いられます。
しかし、プライバシーやセキュリティの観点から、近年ではITPをはじめとした規制が進むようになりました。
ITPとは?Cookieを規制するトラッキング防止技術
ITP(Intelligent Tracking Prevention)とは、Appleが開発したトラッキング防止技術です。
iPhoneやMac搭載のブラウザ・Safariを使えば、主にサードパーティCookieによるデータ取得をブロックできます。
Cookieはもともとユーザー体験の向上を目的につくられた機能です。しかし、ユーザーの意図しないところで行動を追跡したり、データを取得したりするなど、Cookieに対する懸念の声もありました。
そこでユーザーを第一に考えるAppleは、ITPを導入してCookieの規制に踏み入ったというわけです。
これにより、ユーザーはより安心してネットを利用できるようになりました。しかしこれが、アフィリエイトに弊害をもたらします。
ITPによりアフィリエイトの成果の計測が困難に
ITPはユーザーのネット利用をより快適にした一方で、アフィリエイトの成果の計測が難しくなるという、大きな問題を招くことになりました。
成果の計測は主にASP(Affiliate Service Provider)が行なっており、ITPに対応した新たな計測方法を各ASPは考えなければなりません。
その対応が不十分であれば…
○ ASPはアフィリエイターから信用を落とし、アフィリエイターが離れていく
○ EC事業者の収益も低下し、十分な費用対効果を得られなくなる
このように、ITPはユーザーにとって大きなメリットがありますが、アフィリエイトに携わる人にとっては大きな脅威となりえます。
またSafariのITPだけでなく、ChromeやFireFoxなど、ほかのブラウザもトラッキング防止に続々と取り組んできています。この動きはさらに拡大する見込みであり、決してSafariだけの問題ではないことを覚えておきましょう。
ITPのアップデートの経緯と対策方法
AppleがITPを導入して以来、Cookieに対する規制強化は急速に進んでいます。
ITP1.0:サードパーティCookieは24時間で削除
2018年9月
ITP2.0:サードパーティCookieは即時削除(事実上、読み込み不可)
2019年3月
ITP2.1:JavaScript発行のファーストパーティCookieは7日間で削除
2019年5月
ITP2.2:JavaScript発行のファーストパーティCookieは24時間で削除
これまでITPがアップデートされるたびに、各ASPも対策を行なってきましたが、今のところ本質的な解決には至っていません。今後もこのイタチごっこはしばらく続くと予想されています。
また、EC事業者やアフィリエイター側でできる有効なITP対策は、現状ではありません。基本的には、各ASPの対応状況を見守る形になります。
ASPが計測方法を変更するにあたり、EC事業者は協力を要請されることがあるので、その場合は速やかに対応しましょう。
アフィリエイターはサイト分析を行い、数値に大きな変動や異常がないかを、普段からチェックしておくとよいです。
厳しさを増すアフィリエイト。それでもまだチャンスはアリ
ITPによるCookie規制のほかにも、アフィリエイトを取り巻く状況は年々厳しさを増しています。
- 大手企業がアフィリエイトに次々と参入(市場にライバルが増加)
- Google検索のコアアップデートにより、検索順位が大変動(SEO集客の難易度が上昇)
- 10〜20代の間で、SNS検索を利用する人が増加(集客導線の多様化が必要)
特にアフィリエイターにとっては苦しい状況であり、EC事業者も今後のアフィリエイトに不安を抱く方がいることでしょう。
注1)市場規模は、アフィリエイト広告の成果報酬額、手数料、諸費用(初期費用、月額費用、オプション費用等)などを合算し算出した。
注2)2018年度は見込値、2019年度以降は予測値。
出典:株式会社矢野経済研究所「アフィリエイト市場に関する調査(2018年)」(2019年3月1日発表)
しかし、アフィリエイトは低予算・低リスクで続けられるうえに、高い費用対効果を見込めるため、ビジネスモデルとしてはとても優秀です。
さらにスマホの普及によって、ECサイトから買い物をする人は増えており、アフィリエイトの市場規模は右肩上がりに成長しています。
以上のことから、アフィリエイトにはまだまだチャンスが眠っていると考えられます。
以前よりも成果を上げる難易度は上がっていますが、それでも十分にメリットを享受できる段階にあるといえるでしょう。
ただし、ビジネス環境は急激なスピードで変化しているため、常にアンテナを立てて、変化に柔軟に対応することを忘れてはいけません。
まとめ
Appleが導入したITPは、ユーザーのプライバシー保護やセキュリティ強化に貢献した一方、アフィリエイトの成果の計測を困難にしました。
ITPによるCookieの規制は急速に進んでおり、今後どのように変化するのかは未知数です。しかしITP対策が遅れてしまうと、アフィリエイトの成果に大きな影響を及ぼしてしまうことは必至です。
基本的には各ASPの動向を見守る形にはなりますが、ITPのアップデート情報を自身でも確認するなど、できることから対策を進めていきましょう。
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