顧客から選ばれるECサイトを作るには?事業戦略を再構築する「AB3C分析」の手法と成功事例【セミナーレポート】
- 2023.03.302023.10.30
コロナ禍でのEC市場の急拡大が一巡し、企業同士の競争が激しさを増している2023年。自社ECサイトを運営していく上で、「顧客から選ばれる理由」を明確にすることが一層重要になっています。
そこで株式会社フューチャーショップは、消費者から選ばれるECサイトの作り方をテーマとしたオンラインセミナー「AB3C分析で事業を見直す お客様に『選ばれるEC』の秘訣と事例」を2023年1月に開催しました。
講師を務めてくださったのは、Webコンサルティングの先駆者として多くのEC事業者さまを支援してきた株式会社ゴンウェブイノベーションズの権成俊さん。
EC事業者さまにイノベーションが必要な理由や、事業戦略を再構築して差別化する方法などを詳しく解説してくださいました。
権さんが提唱しているマーケティングフレームワーク「AB3C分析」を活用して業績の立て直しに成功した老舗企業の事例や、ビジネスの再構築に活用できる補助金制度の紹介など、盛りだくさんの内容でお送りしたセミナーをレポートします!
【この記事を読むと次のことがわかります】
- EC業界のトレンド
- EC事業者さまにイノベーションが必要な理由
- 顧客から選ばれるECサイトを作る方法
- 事業の再構築に役立つフレームワーク「AB3C分析」の活用法と成功事例
- EC事業者さまのビジネスの再構築に活用できる補助金制度
目次
株式会社ゴンウェブイノベーションズの権成俊さんが登壇
講師を務めてくださった権成俊さんは、日本におけるウェブコンサルタントの先駆者として、これまで数多くの企業の事業戦略の策定や、ウェブ戦略の実行をサポートしてきました。対症療法としてのウェブ活用ではなく、商品やサービスの本質的な価値を見直す「根本治療としてのウェブ活用」を提案しています。
事業の全体像を描くこと、つまり事業戦略の構築をサポートするのが私たちの仕事です。そして、戦略をウェブサイトなどのデザインに落とし込み、コンテンツを発信するところまで支援します(権成俊さん)
株式会社ゴンウェブイノベーションズ
代表取締役
権 成俊(ごん なるとし) 氏
株式会社ゴンウェブイノベーションズ代表。日本のウェブコンサルタントの先駆者として、多くの実績を持つ。集客など「対症療法としてのウェブ活用」ではなく、自社の提供する価値から見直す「根本治療としてのウェブ活用」を提案。現在は一般社団法人ウェブコンサルタント協会 代表理事も務め、本質的なウェブ活用の視点を広めるために、ウェブコンサルタントの指導・育成にも取り組んでいる。
簡単に比較されてしまう現代のECは「選ばれる理由」が不可欠
セミナーの冒頭、権さんはEC市場のトレンドに言及し、「かつて、買い物は単一のチャネルで完結していたが、現在は実店舗やPC、スマホ、SNS、紙媒体など、複数のチャネルやデバイスを行き来して買い物をすることが当たり前になっている」と指摘。カスタマージャーニーが多様化・複雑化しているため、「消費者の動きを企業がコントロールすることは不可能になった」と強調しました。
消費者がスマートフォンを携帯し、いつでもどこでもインターネットにつながることができる現代は、ECであれ実店舗であれ、常に競合と簡単に比較されてしまいます。こうした時代に物を売るには、本質的な差別化を行い、顧客から「選ばれる理由」を作らなくてはいけません(権成俊さん)
「EC市場は成熟期。EC事業者にはイノベーションが必要」
日本でECが本格的に普及してから20年以上が経ち、今やECは当たり前のものになりました。EC市場は成熟期を迎え、あらゆるカテゴリで競合がひしめいています。仕入れた商品をただ売るだけのECでは、利益を確保するのが難しいでしょう(権成俊さん)
現在のEC市場についてそう指摘した権さんは、「プロダクト・ライフサイクル」(※1)の成長曲線を例に挙げ、EC市場は成熟期を迎え、衰退期へと向かっていくなかで、「これからの時代にECで利益を上げるには差別化が必要」と指摘しました。
成熟期とは、供給が需要を上回っている状態です。EC市場でプレイヤーが増え続ける中で、利益を確保するには、ECに付加価値をつけて差別化しなくてはいけません(権成俊さん)
そして、これまで上手くいっていたEC事業者さまも含め、長期的にEC業界で生き残っていくためには「イノベーションが求められている」と訴えかけました。
ECに独自のサービスを付加したり、ECとリアルを組み合わせたりして、付加価値の高いビジネスを行うことが必要です。今、多くのEC事業者にイノベーションが求められています(権成俊さん)
(※1)アメリカの経済学者、ジョエル・ディーンが提唱したと言われる理論
企業の事業戦略を再構築する「AB3C分析」
続いて権さんは、企業がイノベーションを実現する方法の1つとして、自らが提唱しているマーケティングのフレームワーク「AB3C分析」について解説しました。
「AB3C分析」とは、「顧客(Customer)」「自社(Company)」「競合(Competitor)」「価値(Benefit)」「優位点(Advantage)」の5つの要素を使い、自社の本質的な価値を明確にし、顧客から選ばれる理由(=差別化要素)を見出すフレームワークです。
AB3C分析を行うと、自社の強みを活かし、かつ、競合よりも優位性のある事業戦略を構築することができます(権成俊さん)
なお、「AB3C分析」は経営コンサルタントの大前研一さんが発表した「3C分析」をベースにした理論です。「3C分析」が対象としている「顧客(Customer)」「自社(Company)」「競合(Competitor)」に、顧客が求めている「価値(Benefit)」と、競合と比較した際の自社の「優位点(Advantage)」を加えることで、差別化の要素を深掘りするのがAB3C分析の特徴です。
「AB3C分析」の活用法
AB3C分析は、商品を利用するシチュエーションを細分化し、シチュエーションごとに顧客が求めている価値を想定した上で、「価値(Benefit)」の部分に、さまざまな価値のパターンを当てはめていきます。
例えば、ビールメーカーであれば、「ストレス発散したい」「スポーツ後に喉を潤したい」「みんなで乾杯したい」といった、顧客が求めている価値を入れます。そして、その価値を提供する場合の自社の強みや、実際に価値を感じる「顧客」、さらには、その価値を提供するときの「競合」を想定します。最後に、その場合に考えられる自社の「優位点(Advantage)」を深掘りします。
権さんはケーススタディーとして「みんなで乾杯したい」という「価値(Benefit)」を想定し、自社の強みに「万人受けする・どこにでもある」、顧客は「会社の飲み会」、競合は「日本酒・焼酎・ウイスキー・ワインのメーカー」を当てはめました。
そして、「優位点(Advantage)」として「注文が楽・早く乾杯できる」という点を想定すれば、「会社の飲み会にビールがあれば、すぐに乾杯できる」という切り口で訴求できることを説明しました。
商品の利用シーンごとに優位点を考え、さまざまな優位点の中から他社が真似できないことを見つけてください。それが「選ばれる理由」になります(権成俊さん)
【AB3C分析を活用した戦略立案のポイント】
- 消費者が求める価値を掘り下げ、整理する
- 求める価値の違いによって、顧客を分類する
- それぞれの競合を考える
- それぞれのAB3Cを考える
- 実現可能なパターンを見出し、事業計画に落とし込む
なお、AB3C分析を実際に行う際は、市場調査や競合調査、業績分析など、さまざまな調査・分析を行うそうです。Googleアナリティクスを使った自社サイトのアクセス分析や、インターネット上に無数に存在する口コミの分析なども必要に応じて行うとのこと。AB3C分析の詳細について知りたい方は、株式会社ゴンウェブイノベーションズにお問い合わせください。
【成功事例】老舗の漬け物屋が「AB3C分析」で事業戦略を再構築
セミナーでは、AB3C分析を行って事業改革に取り組み、事業戦略を再構築することで業績拡大に成功した企業の事例も紹介しました。
【上澤梅太郎商店さまの事例】
- 栃木県日光市に店舗を持つ老舗の漬け物屋
- 100年ほど前に、味噌・醤油屋から漬け物屋に転換
- チャネル別の売上構成比は、実店舗が5割・カタログ通販が4割・ECが1割
- 漬け物市場の縮小と、観光客の減少によって、売上が減少していた
栃木県日光市に店舗を構えている老舗の漬け物屋「上澤梅太郎商店」さまは、らっきょうの「たまり漬け」など美味しい漬け物を販売しているにもかかわらず、漬け物市場の縮小や観光客の減少によって、近年は売上高が下がっていたそうです。
漬物市場が縮小しているうえ、観光地も衰退期に入っていたため、企業努力だけではどうにもならない状況でした(権成俊さん)
権さんは上澤梅太郎商店さまの事業戦略を再構築するため、同社の本質的な価値を再定義することから開始したそうです。
従来の同社の価値をAB3C分析に当てはめると、「ご飯に合うおかずを手軽に買える」というものでした。しかし、競合がたくさんある中で「味」や「手軽さ」を訴求するだけでは差別化が難しいと判断。伝統や商品力などの価値を残しながら、時代に合った価値を提供できるように、ビジョンも見直していきました。
権さんは上澤梅太郎商店さまのビジョンを見直すため、社長さんなどに対して合計50時間にわたるインタビューを実施。その結果、社長さんが約15年に渡り朝食をブログにアップしており、「おいしい朝食を毎日食べること」の価値を発信していることを見出しました。
漬け物を100年も売ってきた会社ですから、長く続いている理由があります。その価値を残しながら、「選ばれる理由」を明確にするために、3ヶ月ほど議論しました。その中で、「朝食に強いこだわりがある」ことが、上澤梅太郎商店さまのビジョンにつながるのではないかと考えました(権成俊さん)
上澤社長は、「ご飯と味噌汁、漬け物はどんなおかずでも相性が良く、毎日飽きることなく豊かな朝食が食べられる」という信念をお持ちだったそうです。そして、「上澤梅太郎商店」さまの商品があれば、手間をかけずに豊かな朝食を毎日続けることができる。こうした点を、「豊かな朝食を毎日手軽に実現できる」という価値として定義し、上澤梅太郎商店さまのビジョンに反映していきました。
上澤社長は、漬け物を売ることを通じて、「多くの人に、毎日美味しい朝食を食べてもらいたい」という強い想いを持っていました。その想いを踏まえ、「豊かな朝食を提供する」ということをビジョンに盛り込みました(権成俊さん)
そして、AB3C分析を行い、「美味しい朝食とは何かを理解できる、体験できる、手軽に再現できる。手軽だから続けられる」という点が、上澤梅太郎商店さまの優位性になると考えました。
上澤梅太郎商店さんは漬物や味噌汁を売っていますが、その本質的な価値は「豊かな朝食を、毎日手軽に実現できる」ということだったのです(権成俊さん)
「豊かな朝食」を体現するため、朝食セットと食堂を開始
上澤梅太郎商店さまは、ビジョンを見直したことで事業戦略も大きく変わりました。朝食セットを新たに開発したほか、「日光でしか食べられない朝食を提供する」という価値を提供するため、工場の敷地内に食堂もオープンしました。
そして、上澤梅太郎商店さまは事業改革を行ったことで業績の改善に成功。近年は売上が減少基調にありましたが、新商品や新たなサービスを導入したことでV字回復したそうです。
自分たちの強みを活かし、競合が真似できない商品やサービスを提供できるようになったことが成功の要因です(権成俊さん)
「事業再構築補助金」をイノベーションに活用
セミナーの終盤、権さんは企業のイノベーションに活用できる補助金も紹介しました。
中小企業庁の「事業再構築補助金」は、企業が業態転換などを行う際にかかる投資の一部を補助する制度です。例えば、ECサイトを立ち上げる際の費用が補助対象になるほか、新商品のECサイトや越境ECサイトを新たに立ち上げる場合も申請できます。
また、「既存の物販ECにサービスを加え、付加価値の高いECサイトに転換する際にも申請することが可能」(権さん)と強調しました。
補助金を申請するには、事業を再構築するための事業計画書を提出する必要があります。事業計画を作るには、まずは全体戦略を考え、事業の全体像を決めなくてはいけません。その際にもAB3C分析が役立ちます(権成俊さん)
イノベーションには覚悟が必要
セミナーの最後に権さんは、「商品を仕入れて売るだけのECでは、差別化は無理」とあらためて強調しました。そして、「イノベーションに取り組むなら早い方がいい」と強調した上で、「今必要なことは、イノベーションへの覚悟を持つこと」と訴えかけました。
これまで通りのECを続けているだけでは、見通しは明るくありません。イノベーションに取り組む覚悟が求められています(権成俊さん)
そう話した一方で、「市場構造が急激に変化している今は、チャンスでもある」と指摘。参加者に対して次のように訴えかけ、セミナーを締めくくりました。
今日は「危機感を持ちましょう」という話もしました。しかし、悲観的になる必要はありません。市場環境が大きく変わっているということは、新しい市場がたくさん生まれているということ。つまり、新しいビジネスにチャレンジするチャンスでもあります。ぜひ一緒にチャレンジしていきましょう(権成俊さん)
まとめ
今回のセミナーでは、自社が提供している商品やサービスの価値を見直し、事業戦略を再構築する方法について、事例を踏まえて具体的に学ぶことができました。EC市場の競争が激しさを増す中で、より付加価値の高いECに挑戦していきたいEC事業者さまにとって、ヒントになれば幸いです。
株式会社フューチャーショップは、EC事業者さまのビジネスに役立つセミナーを随時開催しています。今後の予定はセミナーページで告知していますので、ぜひご覧ください。