2023年のEC業界を振り返る!コト消費・AI活用・宅配クライシス・ステマ規制などトレンドをおさらい

2023年のEC業界主なトピックスまとめコラムコト消費の盛り上がりやECへのAI活用、宅配クライシスの再燃など、さまざまな出来事があった2023年のEC市場。ステルスマーケティングが禁止されるなど、ECのビジネスモデルに影響する法改正もありました。2023年のEC業界は、どのような市場環境だったのでしょうか。2023年のEC消費のトレンドや、EC業界で起きた主な出来事を振り返ります。

【2023年の主な出来事】

  • 「コト消費」を中心に1世帯あたりのEC支出額が増加
  •   2024年問題を控え「宅配クライシス」が再燃
  •   ECサイトにおける「AIの活用」が本格化
  • 「ステルスマーケティング」が法律で禁止

「コト消費」を中心に1世帯あたりのEC支出額が増加

まずは、2023年におけるEC消費のトレンドを振り返ります。総務省の「家計消費状況調査」によると、2023110月における1世帯あたり(二人以上世帯)のEC支出額はすべての月で前年同月を上回りました。

20231112月は記事公開時点で未公表

2023年1~10月の1世帯あたりのEC支出額

【出典】総務省「家計消費状況調査」調査結果 ネットショッピングの状況 二人以上の世帯

商品カテゴリ別の支出額の増減率を計算したところ、「旅行関係費」や「チケット」が大きく伸びていることが分かりました。コロナ禍の収束に伴い外出の機会が増え、旅行やイベントといったコト消費がEC支出をけん引したと言えるでしょう。物販系のカテゴリでは「食料」「衣類・履物」「化粧品」が堅調でした。

2023年1~10月の1世帯あたりのEC支出額(カテゴリ別)

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【出典】総務省「家計消費状況調査」月次データをもとに編集部が作成

1世帯あたりのEC支出額はプラス成長が続いている一方で、ネットショッピングの利用割合はプラス成長とマイナス成長の月がありました。20231月以降のネットショッピング利用割合(二人以上の世帯)を見ると、4月、6月、7月、9月、10月は前年の同じ月を上回りましたが、1月と2月は前年を下回り、それ以外の月はほぼ横ばいでした。

2023年1~10月の1世帯あたりのEC利用割合

【出典】総務省「家計消費状況調査」調査結果 ネットショッピングの状況 二人以上の世帯

2020年から2021年にかけて盛り上がった「巣ごもり需要」は一巡し、消費のリアル回帰が進むなかで、EC市場への新規ユーザーの流入が鈍化した可能性があります。一方、すでにECを利用している消費者のEC支出額はコト消費を中心に拡大しました。こうしたデータを踏まえると、2023年は既存顧客のファン化を通じて単価アップやリピート率向上に注力することがこれまで以上に重要な年だったと言えるでしょう。

2024年問題を控え「宅配クライシス」が再燃

2023年は配送会社による運賃の値上げや、翌日配送エリアの縮小など、EC物流に影響する出来事が相次ぎました。ガソリン価格や人件費が高騰していることに加え、物流の2024年問題を目前に控え、宅配クライシスが再燃した格好です。

【キーワード】2024年問題

2024年41日から、トラックドライバーの時間外労働時間の上限が年間960時間に制限されることに伴い、運送業界全体で人手不足が深刻化すると言われている問題。 

配送キャリアの運賃値上げが相次ぐ

ヤマト運輸は2023年4月3日、「宅急便」「宅急便コンパクト」「EAZY」「国際宅急便」の運賃を値上げしました。運賃の改定率はサイズや届け先などによって異なりますが約10%の値上げです。

佐川急便も2023年4月1日に「飛脚宅配便(飛脚クール便含む)」「飛脚特定信書便」「飛脚ラージサイズ宅配便」の運賃を値上げしています。改定率は約7~23%でした。

そして、日本郵便も2023年10月1日に「ゆうパック」の運賃を値上げしています。

宅配3大キャリアが運賃を値上げした影響は、ECサイトの送料にも波及しています。例えば、LINEヤフーは「ヤフオク!」と「PayPayフリマ」の配送サービス「おてがる配送」の送料を202310月に値上げしました。オフィス用品大手のアスクルも同年10月、カウネットは同年12月から送料を値上げしています。

なお、佐川急便が2024年4月に運賃を再度値上げするなど、運賃上昇のトレンドは終わっていません。EC事業者さまは今後、運賃の値上がり分を販売価格や送料に転嫁するのか、企業努力で吸収するのか、難しい判断を迫られることになるでしょう。

翌日配送エリアの縮小やサービスの統廃合も

トラックドライバーの人手不足を背景に、宅配サービスの改変や廃止も目立ちました。ヤマト運輸は2023年6月1日から、一部区間で宅急便などの配送日数と指定時間帯を変更しました。例えば、関東から中四国の一部へ荷物を送る場合、従来は翌日配送が可能でしたが、61日以降は翌々日配送になっています。

運送業界の人手不足が深刻化するなか、宅配キャリア大手の提携も進んでいます。

佐川急便と西濃運輸は2023年8月、青森県内の一部地域で共同配送を開始しました。人口減少地域で宅配サービスを持続可能にする取り組みです。また、佐川急便は不在持ち戻りとなった荷物を、郵便局の窓口で受け取れるサービスを2023年10月に開始しています。

ヤマト運輸は「クロネコDM便」を2024年1月31日に終了し、日本郵便が取り扱う「ゆうメール」を活用した新サービス「クロネコゆうメール(仮称)」を開始します。新サービスの配送は日本郵便の配送網を活用する方針です。

宅配キャリアの協業は今後さらに広がる可能性があります。共同配送などによって配送効率が向上すれば、人手不足の緩和が期待できるでしょう。一方、配送会社同士の提携によってサービスの寡占化が進めば、荷主に対する価格交渉力が強くなる懸念もあります。宅配キャリアによる協業の動きは、2024年以降も注視する必要がありそうです。

再配達削減へ「置き配」が拡大

運送業界の人手不足を受け、再配達を削減するために、ECサイトの「置き配」が広がっています。

ファッションECモール大手の「ZOZOTOWN」は2023928日から、商品の受け取り方法の初期設定を「あんしん置き配(玄関前)」に変更しました。BtoB通販大手の「モノタロウ」は20231121日から「不在時置き配サービス」を開始。1997年から置き配を導入しているファンケルは、置き配を選択した顧客にポイントを付与するキャンペーンを20241月下旬から2月末にかけて実施します。

国土交通省によると、宅配便の再配達率は20235月時点で11.4%でした。政府は2024年問題などへの対策をまとめた「物流革新に向けた政策パッケージ」に、2024年度に再配達率6%を目指す方針を盛り込んでいます。再配達削減は国をあげた取り組みになっており、今後、ECサイトの受け取り方法は「置き配」がスタンダードになっていくかもしれません。

ECサイトにおける「AIの活用」が本格化

Microsoft傘下のOpenAIが提供している生成AIサービス「Chat GPT」の登場でAI関連のサービスに注目が集まるなか、ECサイトにAIを活用する動きも本格化しました。商品説明文やキャッチコピーなどを作る生成AIや、AIを活用したレコメンド機能など、さまざまな製品が登場しています。ECサイトにおけるAI活用の事例を紹介します。

株式会社パルがインフルエンサースタッフをAI化したチャットサービス開始

アパレルや雑貨などのブランドを展開しているパルは202310月、インフルエンサースタッフをAI化したチャットサービス「ファッションメイト」をパルクローゼットに実装しました。インフルエンサースタッフがInstagramに投稿したデータなどをもとに、スタッフの価値観やライフスタイル、嗜好、表現手法などをAIが学習し、本人のような投稿やコミュニケーションを行うとしています。

株式会社パル「ファッションメイト」

インフルエンサースタッフの価値観やライフスタイル、嗜好、表現手法などをAIが学習し、本人のような投稿やコミュニケーションを行う

【出典】株式会社パルホールディングス 20231019日 プレスリリース【PAL CLOSET】パルのインフルエンサースタッフのもう一人の「わたし」を創出するファッションメイトをリリース

株式会社バニッシュ・スタンダードがSTAFF STARTに文章生成AIを搭載

バニッシュ・スタンダードは202311月、コーディネート投稿アプリ「STAFF START」の新機能として、文章を自動生成する「AIアシスト」を実装しました。店舗スタッフがECサイトやSNSなどにコンテンツ(写真・動画)を投稿し、写真や動画の伝えたいポイントに沿ったタグを選択すると、文章の素案をAIが自動で生成します。同社は今後、写真や商品ページから情報を読み取る機能や、より「その人らしさ」を追求した投稿文を作成できる機能も追加するとしています。

STAFF START「AIアシスト」

コンテンツに付ける文章の素案をAIが自動で生成する

【出典】株式会社バニッシュ・スタンダード 2023121日 プレスリリース STAFF START、AIアシスト機能を提供開始 第一弾は投稿文の自動作成

株式会社フューチャーショップが顧客行動を学習するAIレコメンド機能の提供開始

フューチャーショップは20233月、ECサイト構築プラットフォーム「futureshop」の次世代型レコメンド機能「future AI Recommend」をリリースしました。ECサイトの商品データや購買データなど、さまざまなデータを使って機械学習を行い、ECサイトを訪れたユーザーの「購入しそうな商品」や「興味がありそうな商品」を予測した上で、ユーザーにとって最適な商品をレコメンド枠に表示します。さらに、その商品がクリックされたか否かや、購入の有無といったデータも機械学習に使用し、レコメンドの精度を高めていきます。

フューチャーショップ「future AI recommend」

ECサイトを訪れたユーザーの行動データをAIが学習し、「購入しそうな商品」や「興味がありそうな商品」を予測した上で、ユーザーにとって最適な商品をレコメンド枠に表示する

「future AI Recommend」について詳しくは、こちらのサービスページをご覧ください。

アスクル株式会社が在庫補充にAI需要予測モデルを活用

アスクル株式会社は202311月、物流センターと補充倉庫における商品輸送(横持ち)に、AIを活用した需要予測モデルを導入し、全国の物流拠点への展開を開始したと発表しました。物流センターと補充倉庫における商品の横持ちにおいて、「いつ・どこからどこへ・何を・いくつ運ぶべきか」をAIが指示します。これまで人間が行っていた横持ちの計画にAI需要予測モデルを活用することで、予測精度の向上や作業工数の削減につなげる計画です。なお、ALP横浜センターにおいては、商品横持ち指示の作成工数が約75%減/日、入出荷作業が約30%減/日、フォークリフト作業が約15%減/日という実績を得たとしています。

アスクル株式会社のAI需要予測モデル

物流センターと補充倉庫における商品輸送(横持ち)に、AIを活用した需要予測モデルを導入した

【出典】アスクル株式会社 20231129日 プレスリリース アスクル、物流センターと補充倉庫間の商品横持ち計画にAI需要予測モデルを活用、予測精度の向上と作業工数削減を達成

「ステルスマーケティング」が法律で禁止

2023年10月に景品表示法が改正され、ステルスマーケティング(以下、ステマ)が禁止されました。インフルエンサーやアフィリエイターなどに報酬を支払い、宣伝する内容を指示しているにもかかわらず、広告であることを隠せばステマになります。また、企業が第三者になりすましてSNSや口コミサイトで商品を褒めるなど、広告であることを隠して商品やサービスを宣伝することもステマです。

なお、2023年9月以前に公開された広告であっても、101日以降に消費者が閲覧できる状態にあれば、規制の対象になるため注意が必要です。

ステマ規制は、インフルエンサーマーケティングやアフィリエイト広告など、EC業界でも広く使われている宣伝手法に影響します。意図せずステマを行うことがないように、自社の広告表示をあらためて見直しましょう。

ステマ規制の内容や、EC事業者さまが注意すべきポイントをまとめた記事も公開しています。こちらもご一読ください。

まとめ

本稿で取り上げた「宅配クライシス」や「AI活用」といったトレンドは、2024年以降も続くことが予想されます。

2024年問題への対応を怠れば、物流がボトルネックとなり、EC事業の成長にブレーキがかかりかねません。2024年問題がEC業界に与える影響や、EC事業者さまに求められる対応策などについて、EC物流の専門家が解説した記事も公開していますので参考にしてください。

ECサイトの各種機能にAIを活用する取り組も、今後さらなる発展が予想されます。ECの販促や業務効率化において、AIはすでに重要な役割を担うようになっており、今後はAIを使いこなせるか否かがEC事業の成否を左右するかもしれません。ECサイトにAIを活用する意義や効果について、専門家を招いて解説したオンラインセミナーのレポート記事も公開しています。そちらもぜひご一読ください。

自社ECサイトの新規立ち上げやリニューアルを計画している事業者さまへ

総務省の「家計消費状況調査」の結果を踏まえると、2023年は、すでにECを利用している消費者のEC支出額がコト消費を中心に拡大した一方で、新規ユーザーのEC市場への流入は鈍化した可能性があります。既存のお客さまとのつながりを強化し、お店のファンを増やすことの重要性が、これまで以上に高まっていると言えるでしょう。

ECサイト構築プラットフォーム「futureshop」は、お客さまのファン化につながる多彩な機能を備えています。futureshopの相談会も随時開催していますので、2024年に自社ECサイトの新規立ち上げやリニューアルを計画している事業者さまは、下記のセミナーページからお申し込みください。